刀剣乱舞
□遠い未来の彼方から
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目が覚めると大体千年前くらいを思い出させるような木で出来た天井が見えた。
たしか昔の人は日本の風流とか言って、好んでこういう古風な家具を揃えたりしていたらしいが、現在の日本は完璧に電子化しているからあまり見かけない。
始めてみた光景に少し感動しながらも根本的なことを考える。
…ここ、どこだ。
大量にいた感染者は?!桜は?!
あの声は?!
「お目覚めですか、蕃神者殿。早速で申し訳ないのですが私共をお助けくださいませ」
目の前にいるのは喋る狐。
最近品種改行てきな感じをして、喋る犬がテレビに出ていたからそれと同じだろうか。
にしてもなんでこんなところに…
っていうか、蕃神者殿…?
「ぽかんとしているところ申し訳御座いません。わたくしはこんのすけ。蕃神者殿の式神に御座います」
「式神…?」
たしか中学の頃に歴史で習ったような気がする。
昔は霊的存在がいて、それを祓うための手段の一つとして式神を用いるとかなんとか…
たしか2806年に、霊は憎しみから生まれる怨念だということが科学的に証明されて、今の時代はシステムのおかげで不自由なく暮らすことが出来るからそういう物が現れる事もないんだけどね。
「…で、なんで私に式神がいるの?」
「蕃神者様、実は貴方には隠れた膨大な霊力があるのです。私はそこから生まれました」
「霊力…?」
「はい。これは人間誰しもが持つものなのですが、その力が強い者と弱い者があります。蕃神者殿はそれが桁外れに強い…。そのため、この世界へ呼ばれました。我々の世界を、貴方様の世界を守るために」
この世界?私の世界を守る?
「…それはつまり、どういうこと?」
「確かに此処へ来たばかりで混乱した中、淡々と話過ぎてしまいました。申し訳御座いません。
この世界にパラレルワールドが在ることはご存知ですか?」
「うん、知ってるよ。たしか2937年にロスト=マコールが科学的に証明していたんだ」
「左様でございましたか。それならば話が早い。此処は2205年の世界です」
「2205年…」
「蕃神者殿が薬を打ち込んだ者を覚えていらっしゃいますか?」
「え、あ、うん。感染者の事だよね」
「ほう、蕃神者殿の世界ではあれを感染者と呼ぶのですね。あれは歴史修正主義者たちに取り憑かれたあやつり人なのです」
「歴史修正主義者って?」
「過去を変えようとする者達の事です。我々はその存在に気付かず、一度は歴史を変えられてしまいました。その結果が今の蕃神者殿の世界です。急にあの様なあやつり人が現れた…それは過去だけではなく未来までもを攻撃しようとしている歴史修正主義者なのです」
まさか、私たちの知らない世界でそんなことが起こっていたなんて思わなかった。
それからも淡々と話し続ける狐。
「そうだ…それなら早く総監に知らせなきゃ。こんのすけくん、悪いけど今の時代への帰り方教えてくれる?」
「それは出来ません。それと、わたくしの事はこんのすけとお呼びください」
え、出来ない…?
「…じゃあこんのすけ、どうして帰れないの?」
「初めに申しましたよね。貴方様の霊力は他の蕃神者殿に比べて桁外れに強いと…」
「そのせいでこの世界に呼ばれた、とも言っていたよね私やこんのすけの世界を守るために」
「その通り。蕃神者殿の世界を守るためには、ここで歴史修正主義者を全滅させる必要が御座います。この世界で全滅させる事が出来れば、元から3000年にあやつり人が出現することもない。貴方様は、選ばれたのです。3015年ももっと先の未来居る政府から」
私が…選ばれた…?
なんで…?
全く表情を変えずにただ話し続けるこんのすけに少し怒りを覚えた。
「そんなの、私じゃなきゃダメだったの?!どうして…!」
「きっかけはあのあやつり人でした。元々貴方様の霊力は高すぎる故に、本能が制御していたのです。が、それがあのあやつり人に殴られたことにより本能が乱れ、解放されました。」
「じゃあもしかしてあの光と胸の痛みは…!」
「はい、光は霊力、痛みは解放された証拠に御座います。歴史修正主義者は、自分たちが消えるのを恐れている。だから強い霊力を発見して、それを排除するために集まってきていたのです」
「あの大量な数はそのせいだったんだ…」
「はい。そしてその力を感じとった政府から蕃神者殿として選ばれ、此処へお連れになりました。貴方様には「眠っている者の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる技」がある。その力を使って、世界を、未来をお守りくださいませ」
急にそんなことを言われても困る。
でも、こんな可愛い狐が頭を下げてお願いしている…←
それに、私がここで戦うことで世界を守る事が出来るのなら…
「…わかった」
「貴方様なら、そう言ってくださると思っておりました。名前を伺っても宜しいですか?」
「…主。こんのすけ、やっぱりこんちゃんって呼んでいい?なんか長いよ」
「蕃神者殿のお好きなように」
「(名前聞いたくせに名前で呼ばないんだ)」
「…主様、貴方が我々のために捨てて下さった人生は、この世界で永遠となるのです。貴方様の霊力が無くならない限り。」
「え…それってどういうこと?」
「不老不死ということです。ちなみに、わたくしは貴方様の式神。わたくしが死ぬのも主様の霊力がなくなって、貴方様が死ぬときです。まあ、それは無いと思いますが…」
「そっか…じゃあ寂しくないね」
「そうですね。それに、刀剣男士もいらっしゃいますから」
「刀剣男士…?」
「はい。主様には鍛刀をしてもらい、刀剣より生み出された付喪神…刀剣男士と共に戦ってもらいます。簡単に申しますと貴方様の力で人の形を保てる様になった刀のことです」
「人の形…付喪神って、刀の神様ってこと?」
「ええ。その通り。ですが人の形をする事で感情が生まれ、意志が生まれる。それは最早人と変わらない…」
つまり、ちゃんと接してあげてくれと、そう言いたいんだね、こんちゃん!
「わかってるよ、ちゃんと同じように「なので交われば孕みますからね」…はい?」
「よく言うでしょう、神孕み…と。
貴方様は霊力が強いため問題はないですが、余りその力に恵まれない蕃神者殿ですとそのような行為で刀剣男士に力を与えたりもしていたのです。」
「そ、そうなんだ。…こんちゃん、ここの人は危ない人ばかりなの?」
「さあ、その人によりますね」
…大丈夫、だろうか。
「(自分の貞操は自分で守る)」
「それでは、まず初めに最初の鍛刀を…と言いたい所ですが、今日はいろいろあって疲れたでしょう。1度お眠りになって下さい。また明日」
「うん。そうしてくれると助かる…」
「勿論。あ、言い忘れていましたが貴方様の世界の1分がこの世界の1日になっています。どちらにせよ元に戻れないのであれですが、一応です」
「そ、そうなんだ」
「ではおやすみなさいませ」
そう言って部屋を出ていくこんちゃん。
いつの間にやら隣には布団が敷いてあった。
そこに寝っ転がってとりあえず考える。
歴史修正主義者、刀剣男士、こんちゃん…
まだなんとなくしか分からないけど、習うより慣れろ、明日から頑張ってみよう。
こんなに早くここで生きていくことに納得している自分がいた事に少し驚きつつも、今夜は眠ることにした。