熱情‐PATETICHESKAYA‐

EXHIBITION【1】
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―頭全体が冷たくて気持ちいい


…身体が重い






ここは…?



 ハッとした男の身体がビクンと跳ねた。
跳ね起きたかったが身体が思うように動かず、ゆっくり起き上がる。


「おう、目ぇ覚ましたか」


 誰かが近づいてくる気配を感じた。
少し腫れて狭くなった視界に大きな男が目に入る。


―こいつは確か…声をかけて来た奴だ


「あ、目ぇ覚ましたんスね。
おーい、大丈夫か?」

『…ここ…は…?』

「ボクシングジムさ。
ここなら手当てし易いし練習も終わって誰も居ないから気にすんなよ」


―ああ、こいつに声を掛けられた後…気を失ったのか


『…』

「ああ!!
目を覚ましたんですね!!良かったあああ」


 状況を整理しようと眉間に手を当てると、後ろの方から小柄な男が氷枕を抱えて来た。


「一歩、お前もプロボクサーなら殴り合いぐらいでオタオタするなよ」

「だって木村さん、ボクサーは複数の人間を相手にしませんよ?」


 木村と一歩がやり合っている中、鷹村は満面の笑みを浮かべている。


「お前、なかなかいいセンスしているな。どこかのジムに所属してんのか?」

『…いえ』

「それならどうだ?ここに入らねぇか?
俺様が見込んだとなれば、ベルトも夢じゃねぇぞ?」


 鷹村の誘いと視線を、男は眉間に皺を寄せながら避ける。


『…興味…ないんで』

「はは…鷹村さんもいきなりだなぁ…。でもまぁ、俺も同意見かな

ベルトはお前次第だけど素人にさせとくにゃ勿体ねぇと思うわ」


『…もう…行きます…。ありがとうございました』


 男が話を切り上げるように立ち上がると、頭に置かれていたタオルを一歩に返しながらペコリと頭を下げた。


「お前…いつまで続けるんだ?」


 急いで立ち去ろうとする男に鷹村が声をかけた。


『…』

「俺達はプロだからな。
その辺の雑魚の喧嘩で身につけた身のこなしじゃねぇってのは判るんだよ。


…お前…喧嘩屋だろ?」


 「あぁ…」と納得したように声をあげる木村に、理解出来ない一歩が声を掛ける。


「喧嘩屋?木村さん喧嘩屋ってなんですか?」

「…喧嘩の強い素人を戦わせる地下格闘技の選手を俗に【喧嘩屋】って言うんだよ。
俺達のボクシングはスポーツだけど喧嘩屋はな、武器所持以外は何でもアリの世界だったりする。
表向きは過激な見せ物としてやってるけど、その裏では選手に金を賭けてよ…俺達プロとは違う地下の世界で非合法に金を稼ぐ奴らさ」

「…喧嘩屋…地下格闘技…」

「殆ど元締めはコレ関係って言うしな」


 木村は人差し指で頬に縦の線を書く。


「や…やくざ…ですか」


 ゴクリと喉を鳴らす一歩が男と鷹村のやり取りを待った。


『おたくらには関係ない…だろ』


 男は下を向きながらそう呟いた。


「まぁ確かに関係ないっちゃないがよ?俺様としては貴様のセンスを地下で埋もれさせるのは勿体無いと思ったまでよ。それにな…」

『…もう行きます』






「貴様…だろ?」





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