Re:box

□犬ちゃんと俺
1ページ/3ページ


南波刑務所・4舎地下牢獄に響く、
一つの足音
その足音は、囚人番号634番、通称〈ムサシ〉の収容されている牢獄の前で止まる
ガチャリと、牢獄の扉が開く音
それに続いて、肩にかかる重み
それが〔彼〕、四桜 犬士郎のものだと気付くのに、そう時間はかからなかった
「‥‥犬ちゃん‥‥」
そっと、背中に手を回し、四桜の身体を抱き締めるムサシ
職務に真面目な彼が、自分に甘えることは、殆ど無い
だが、よっぽどの事があったときは、こうやって、甘えてくる
それが、ひどく愛おしく感じる
しかし、それと同時に、身体の奥から沸き上がってくる″嫉妬心″
自分じゃない誰かが、犬ちゃんをこんなになるまで疲れさせたんだと思うと、それだけで理性が飛びそうになる
その唇を無理矢理奪って、押し倒して、自分だけを見てくれるように調教して‥‥
そんな考えが、幾度となく俺の頭の中を駆け巡る

だけど、犬ちゃんを傷つけたくない

人一倍、傷つきやすくて
優しくて、かっこよくて、本心を見抜かれると、すぐにあたふたしだして‥‥
ギュッ‥と、抱き締める腕に力を込めると、少しだけ身じろぎをして、また、ムサシに身体を預ける四桜
(まったく、可愛いな‥‥
これで三十路とか、詐欺だよ、犬ちゃん‥‥)
帽子からはみ出ている銀色の髪を、優しく撫でる
「‥‥犬ちゃん‥‥俺さ‥‥
犬ちゃんにあえて、良かったと思ってる‥‥」
独り言のように、小さく言葉を紡ぎ始めるムサシ
嫌われても、いやがられてもいい
ただ、俺の本当の気持ちを、犬ちゃんに知ってもらいたいから‥‥
「‥‥犬ちゃん‥‥俺‥‥犬ちゃんが‥‥」
「‥‥すきだ‥‥」

呟くような、小さな声
それと同時に、重なりあうお互いの唇

(犬ちゃん‥‥今、何て‥‥)
触れるだけの、短いキスを終えてもなお、頭の中が混乱しているムサシ
「返事は‥‥何時でもいい‥‥
だが、はっきりと聞かせろ‥‥」
それとは対照的な、冷静な声
ムサシに預けていた身体を起こし、ドアの方へと向かって歩く四桜
その指先が、ドアに触れようとした、そのときっ、
「‥‥っん!!」
顎を捕まれ、再び唇を塞がれる
今度は、時分が仕掛けたやさしいものではなく、脳が痺れるほど、甘く深いもの





――――――――――――――――――――
〜nextpage〜
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ