カゲロウプロジェクト 私の居場所

□第六話
1ページ/4ページ


「おはよう」

「…………」

私が朝、リビングへ降りると案の定の反応が返ってきた。
 まるで私がいないみたい。
 みんな、まるでこちらに注意を向けないのだ。

「……」

一瞬、キドと目が合ったけど。
 まるで空気しか見えてないみたいに逸らされる。

「行って、来ます」

どうせ誰も反応したりしないけど。
 私は小さくつぶやいて、アジトを出た。



 カノと一緒に歩いていた、いつもの散歩コースを一人で歩く。
 風がひどく、冷たく感じた。

「アカネさん」

「あ、エネちゃん」

不意に携帯から聞こえた声に反応して、私は携帯を取り出す。

「おはようございます」

「……うん、おはよう」

今日、最初の挨拶だ。
 それだけで少し心が軽くなるのを感じながら、私は通りかかった公園のベンチに腰を下ろした。

「今日、なるべくアジトには戻らないほうがいいかもです」

いつになく沈んだ表情で言うエネちゃん。

「みんな、何かしてくる?」
私が穏やかに問うと、エネちゃんは余計につらそうな顔をした。





「……帰りに合わせて、冷水かけるって……」






 何だろうね、その典型的なパターン。
 何のための、いじめなんだろう。






 あの子のための復讐?






 それとも、私をあの団から追い出すための計画?






「そっか」

一瞬のうちに脳裏を走り抜けた考えを、私は無理やり頭の隅へ追いやった。


 そんなこと考えちゃダメだ。
 私がこんなに弱気じゃ、カノにも、エネちゃんにも申し訳ない。
 二人が信じてくれたんだから。
 いつかきっと、皆も信じてくれる。


「なんで、怒らないんですか……?」

エネちゃん、今度は泣きそうな顔をした。

「怒っても、しょうがないじゃん?」


 だって、それがみんなのいいところだから。
 能力がかかわってるせいでちょっとこじれてしまってはいるけれど。
 結局、みんなはただ仲間を守りたいだけ。
 仲間であるミキちゃんを傷つけた私を、懲らしめたいだけ。


「アカネ、さん……」

「今日のエネちゃん、そんな顔ばっかりだよ?」

沈んだ顔から辛そうな顔に、そこから泣き顔に。

「私は、エネちゃんの楽しそうな顔が好き。だから、笑っててよ」

ね?と私が言うと、エネちゃんは目元を何度かごしごしこすって、ようやく笑顔を浮かべた。
 少し引き攣っているけど、笑おうとしてくれている。

「そろそろ戻らないと、シンタロー君に不審がられるよ?」

「それもそうですね」

私が外に出てからすでに三十分。
 エネちゃんが来たのは十分ほど前だ。
 おそらくアジトでは食事をしているだろうし、モモちゃんとシンタロー君は一緒にいるはず。
 モモちゃんと一緒にいる、という嘘はつけないだろう。

「あ、吊り目さんから伝言があるんでした」

「え?」


カノ、から?


 ちょっと想定外の言葉に私は首をかしげる。

「無理はしないで、だそうです」

「……わかった。ありがとうって、伝えてくれる?」

わかりました、とその声を残してエネちゃんは消えた。
 私は一人、ベンチに座ったまま空を見上げる。





「信じてて、いいんだよね……?」





そっと空に手をかざしながら、私は誰にともなく問うた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ