ミカグラ学園組曲 欠陥品マリオネット 完結

□第四幕
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Side 少年

「トンきゅん、最近なんかあったんすか?」

「何でですか?」

部活前。
 先輩たちもまだ集まっておらず、俺とうさ丸くらいしかいない部室でのことだった。

「昼休みとかいつもどっか行ってるし、部活来るの遅刻じゃないけどちょっと遅くなったっすよね?」

「あぁ……」

言われてみて、自分の行動を改めて振り返る。
 最近の昼休みは、凛さんが翔先生と花壇のところで昼食をとってるのを知ってからよくそこに遊びに行くようになった。
 放課後は、ごくまれだが凛さんが六時間目までいたときは校門まで一度見送ってから部活に来る。
 ざっと一日を思い出しても、中心には凛さんがいた。

「色々あるんですよ、いろいろ」

言葉を濁した俺に、うさ丸がハッと目の色を変える。

「まさか、トンきゅん……青春してるんすか!?」

「うるさいですどうやったらそこに行きつくのか理解不能ですがとりあえず黙って」

「何なにっ!?」

そこへ乱入者――一ノ宮エルナ。

「ビックニュースっす!トンきゅんが、青春してるっすよ!」

「え!?何々それホント!?」

もう面倒くさい、と俺はため息をついた。

「何なに?私も聞きたーい」

「え?」

聞こえたにゃみりん先輩の声に、放っておいちゃいけないパターンだった、と後悔する。
 一ノ宮さんの後ろには、ちゃっかり先輩三人組がそろっていたのだ。

「トンきゅんがどうかした?」

「何事何だっつって!」

わらわらとうさ丸を先輩たちが囲み、俺は半ば拘束されるように赤間代表に引っ張り出される。

「トンきゅん、正直に答えるっすよ!」

「だから勝手に話を進めるのはやめ」

「好きな人がいるっすね!」

「答えろと言いながら断定するのはどうかと思いますが」

とりあえず、誤魔化しにかかった。
 あながち否定できないだけ、困る。

「誰だれ!?トンきゅん、まさかにゃみりん先輩?それとも熊野さん先輩?それともそれとも、まさかの女神!?女神はダメだよ、私のなんだから!」

「いつからエルナのものになったんだりゅい」

気づかなかったが、冷静に突っ込みをしている先生も健在だった。

「だから一ノ宮さん、勝手に話を進めるのはやめてくれま」


「はい、いったんストーップ!」


ごちゃごちゃした雰囲気を、一度赤間代表がリセット。
 こういうところは尊敬する。

「で、トンきゅん。実際のところどうなの?」

だが、その笑みでさらっと話を戻すのは勘弁してほしかった。

「……答えたら、俺の質問に答えてもらえますか」

ならそれを利用するだけだ。
 彼女の事を話してはいけないといった、その理由について。

「ま、俺らが答えられる範囲ならね」

赤間代表が頷いたのを見て、俺も口を開いた。

「います」

「おぉ!」

意味不明な盛り上がり。

「で、誰だれ!?」

目を輝かせて迫ってくる一ノ宮さんを押しのけ、俺はさらっと流した。

「誰も名前まで公開するなんて言ってませんよ」

「えぇ!?」

熊野さん先輩がしゅん、と小さくなる。
 やっぱり女子はこういう話に目がないんだな、と思いもしたがその隣ではにゃみりん先輩がいつものごとく昼寝をしていた。
 例外はどこにでもいるものだ。

「今度は俺が質問する番です」

だが、この質問を公にするわけにはいかないのだろう。
 俺は真っ直ぐ、赤間代表を見やった。

「赤間代表個人に、でもいいですか」

「……いいよ」

きっと、赤間代表はどこかで気づいている。
 俺と代表は、近くの人気のない部室へと入った。

「で?質問的なのは何?」

物置として使われているらしい部屋で、あちこちに段ボールが山積みになっている。
 そのうちの一つに背を預け、赤間代表が言った。

「黒神凛さんのことです」

「……やっぱりか」
ふっと暗い表情を浮かべた代表は、寄りかかっていた段ボールを振り返る。
 【衣装 交流会】とマジックで書かれたそれは、ずいぶんとほこりをかぶっていた。

「あんまり詳しいことは知らないし、言えないけど。それでいい?」

「話せる限りで、お願いします」

赤間代表はため息をついて、話し始める。

「俺が知ってるのはあの子が中等部で虐められてたことと、その虐めが拡大して事件が起きちゃったこと。その事件から、凛ちゃんが人間不信みたいになっちゃって先生の保護を受けるようになったことくらいだよ」

事件は詳しく話せないけど、と赤間代表は言って段ボールを開けた。
 ほこりが舞って、夕日の中で妙にきらきらして見える。

「凛ちゃんは中等部の時、裁縫部だったんだ。中等部と高等部の交流会で俺らが劇をするときに衣装の手伝いをしてくれたのが最初。明るくて、気が利いて、すっごくいい子だった」

赤間代表はその頃のことを思い出したのか、少しだけ表情を緩めた。
 が、すぐに苦しそうなものへと変わる。

「でも、事件のあとで学園側が事情を知ってる人とかに口止めをしちゃったから、色んな人――とくに凛ちゃんを虐めてた人は、事件の事とかを全部凛ちゃんが悪いことにして広めた」

その結果が、今の彼女。

そして、今のクラス。

「しかも、かなり酷いらしくてね。凛ちゃんに味方しようとする人も全員ひっくるめて虐めの対象にしかねない」

「だからあの時、俺らのためだと?」

彼女に初めて会った後に言われた、にゃみりん先輩の言葉。


『それがあの子のためでもあるし、二人のためでもあるから』


不用意に詮索をすれば思い出した彼女が傷つくし、もしそれでほかの人から反感を買えば俺らにも被害が及ぶ。

「まぁ、そういうことだね」

パタンッ、と段ボールを閉じた赤間代表は振り返った。

「それじゃ、質問はおしまい?」

「……はい、ありがとうございました」

俺が一礼すると、赤間代表は俺の傍を通り過ぎる際、言った。


「……気を付けろ」
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