ミカグラ学園組曲 欠陥品マリオネット 完結
□第二幕
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Side 少年
翌日。
クラスの席でぼんやりと昨日の凛という少女を思い出していた俺は、ふと廊下が騒がしいのに気が付いた。
「ねぇ、ちょっと……」
「あいつって、まさか……」
「だよね、あの……」
ひそひそと言葉を交わす生徒の波が、教室の入り口のところで不自然に途切れる。
どうやら、このクラスに何かあるようだが。
「大丈夫か」
「……」
「っ!?」
ガタンッ
勢いよく立ち上がったせいか、椅子が思いのほか大きな音を立てた。
人の波をよけるように現れたのは、昨日の少年。
そして、そのあとをついてくる――というより隠れるような黒いフードの人影。
「平気……もう、大丈夫」
どう見ても大丈夫そうではないが、そんな言葉と共にフードが少し上下する。
頷いたのだろう。
少年はそのまま教室へと足を踏み入れて、淡々と俺に近づいてきた。
「空席って、そこだよな?」
「あ、はい」
一体何か、と知らずに身構えていた自分に驚きながら、俺は自分の隣をさす少年に頷き返す。
「なんかあったらすぐ呼べよ?」
「……うん」
頷くにとどめた彼女を一度だけ振り返り、あとは真っ直ぐ教室を出ていく少年。
騒然とした教室は、少女を遠巻きに見ていた。
少女は微動だにせず、椅子に座ってうつむいている。フードをかぶったままで、どんな顔をしているのかは全く分からない。
が、机に隠れた彼女の手が、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめるように握りしめられているのに気付く。
俺は何事もなかったかのように椅子に座り直し、
「黒神凛さん、ですか」
と、いつものように声をかけた。
「……っ」
ビクッと彼女が体を強張らせるのが分かったが、あえて気にしないようにして続ける。
「俺は演劇部で、大変不本意ながらトンきゅんと呼ばれてます。さすがに隣の人くらいは知っておいたほうがいいと思いますので」
恐る恐る、と彼女が顔を上げたのを見て、俺は少しだけ笑って見せた。
「よろしくお願いします」
「……よ、よろしく……」
ペコッと小さく頭を下げた彼女がそう返してくれた事が、不思議と嬉しくて。
その時の周りの目なんて、俺は少しも気にしていなかった。