ミカグラ学園組曲 欠陥品マリオネット 完結
□第一幕
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「迷ったみたいですね。端末も使えません」
「えぇ!?そ、そんなはずは……」
ミカグラ学園のとある一角。
花壇の並んだその場所に、二人の少年の姿があった。
一人は豚のモチーフらしい帽子をかぶったマスクの少年――トンきゅんで、手には【現在使用できません】の表示がされた端末を持っている。
もう一人はウサギの耳のようなアクセサリーをつけた少年――うさ丸だ。引き攣った笑みで、トンきゅんのほうを見ている。
「とりあえず人を探したほうがいいんでしょうが……」
そう言って辺りを見回したトンきゅんだが。
「誰も、いないっす!!」
うさ丸がガクッとその場に膝をつく。
本来なら今は新入生歓迎パーティーが開かれているところで、生徒も教師もほとんどその会場へと集まっているはずなのだ。
だが、早々に演劇部への入部を決めた二人は気分転換に外へと出て、迷子になったのである。
「ですね」
さて、とトンきゅんは手元で画面を真っ暗にしている端末と辺りを見比べて、ふと視線を止めた。
すぐそばの花壇に、何かがいたように見えたのだ。
「誰ですか」
すっと視線を鋭くしたトンきゅんに、うさ丸が目をぱちくりする。
「なんかあったんすか?もしかして、もう人に囲まれちゃって逃げられないみたいなパターンすっか!?」
「うるさいです黙ってくださいうさ丸」
変なところでテンションが浮上したうさ丸を、トンきゅんは容赦なく切り捨てた。
「く〜ん……」
「は?」
が、聞こえた声にトンきゅんにしても珍しく、抜けた声を出す。
茂みから顔を出したのは、小さな子犬――の、ぬいぐるみだ。
「なんすか、これ」
うさ丸がツン、と茂みから出て歩いてくるそれを指先でつつく。
サイズは両手のひらがあれば収まる、本当に小さなぬいぐるみ。だが、まるで生きているかのように二人を見上げてくる。
「これも、もしかしたら誰かの能力なんでしょうか……」
ミカグラ学園の最大の特徴、部活動対抗戦。
その際に使用される、個人の特殊能力。
二人も演劇部の代表である、赤間遊兎の能力を目にしたばかりだ。
「でもこの子犬、かわいいっすね」
そう言ってうさ丸がそのぬいぐるみを手に取ろうとしたとき。
「わんっ!」
突然身をひるがえしたぬいぐるみが、茂みの中へと引っ込んで、
「ひゃっ!?」
その向こう、花壇の影から少女の声がした。
「あの、誰か……」
いるんですか、とトンきゅんが声をかけながら花壇を回り込む。
そこには、一人の少女がいた。
制服の白い上着の代わりに黒いぶかぶかのパーカーを羽織った、小柄な子。
長い黒髪が、草の上に零れ落ちていた。
子犬のぬいぐるみが来たときの反動でなのか、片手を後ろにつきながら腹部でお座りをしているぬいぐるみをなでている。
その少女の傍には、古ぼけた猫のぬいぐるみがあった。
「あの」
「ひっ!」
とりあえず、と声をかけてみると少女はあからさまに肩を強張らせる。
恐る恐るといった様子で、上目づかいにトンきゅんたちを見上げ、
「外部入学の人……?」
と、小さな声で言った。
どこからか知らないが、二人のやり取りを見ていたのだろう。
「はい。貴女さえよければ、会場まで案内してもらいたいんですが……」
「あ、あの!」
トンきゅんの言葉を遮った少女は、子犬のぬいぐるみを両手で抱きながら立ち上がった。
「私は行けない、から……この子が案内、してくれる」
たどたどしく言葉を紡ぎながら、少女はトンきゅんにぬいぐるみを差し出す。
立ち上がっても、彼女の身長はトンきゅんの肩にも満たなかった。
ほとんどパーカーの袖で隠れた指先は、白くて細い。
「え?じゃあ、このぬいぐるみは君のなんすか!?じゃあ操ってたのも!?」
「ひっ!」
突如湧いて出たようなうさ丸に、再び硬直した少女。
トンきゅんは無言で、うさ丸を花壇の影に押し込んだ。
「すみません。驚かせましたか?」
「あ、あの……えと……」
しどろもどろになる少女は、再びぬいぐるみを抱えなおしてしまいどうしようか、と思案しているようにも見える。
そこへ。
「凛、こんなところにいたのか――って」