ミカグラ学園組曲 欠陥品マリオネット 完結

□第六幕
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Side 少年


「トンきゅん……」


とりあえず野次馬を散らし――もちろん、凛さんの事は口外しないよう言い含めて――いつもの部員だけになった部室で。
 赤間代表は俺を気遣うように見た。


「大丈夫ですよ。問題はそれより、この大道具と衣装をどうするかです」


目下の問題は一週間後に迫った公演。
 大所帯の演劇部、大道具ならばある程度立て直すことはできるだろう。
 だが、衣装は中々話が別だ。
 本番中に衣装にもしもの事があっては困るためできるだけ頑丈にしなければならないし、それなりに縫えなければならない。

 しかし演劇部にそれほど裁縫が得意だと言えるのは、部員の動物衣装を作っているにゃみりん先輩など一部の人だけ。
 だからこそ、中等部の裁縫部にまで応援を頼んでいたのだ。
 しかも、今の裁縫部――あのツインテールの少女も裁縫部で、古村杏というそうだ――は、それほど上手い人もいない。
 というかほとんど幽霊部員で、今回手伝ってもらった物も既製品をつなぎ合わせただけという雑さだ。

 手伝ってもらう手前、文句は言えなかったがその出来はかなりひどい。


「去年とか一昨年とかのを使いまわすのは……?」


「サイズが合えばできなくもないんだけど、演目がな……」


俺の提案に赤間代表は眉を寄せた。
 今回は和と洋の御伽話を混ぜ合わせたオリジナルのストーリーで、かなり奇抜な衣装が求められている。
 以前の衣装を使うにしても、ある程度の手直しをするしかないだろう。


「とりあえず、手の空いている人から大道具の修繕!衣装、なんとかできそうなのをとりあえず探して!」


赤間代表が指示を出し、全体が動き出す。


「赤間代表」


俺は先輩の手が空くのを見計らって声をかけた。


「あのカメラって、見ることできますか?」


「え?」


部室にはさすがにないが、対抗戦の時などのためのカメラが部室の前についている。
 入り口はばっちり映っているし、中は見えないが誰が出入りしたかくらいは確認できるのだ。


「トンきゅん、今はそんなことしてる場合じゃ……」


「してる場合です」


俺の思惑を見抜いたらしい代表の言葉を、俺は遮る。


「もしも彼女がしてなかったら?しかも、彼女は元裁縫部で一時期は手伝いもしていたんですよ?もし手伝ってくれるなら、作業の効率は格段に上がります」


「……」


苦い顔で黙りこくった赤間代表。
 粘るように俺が口を開こうとしたとき。


「赤間君、赤間君!」


と、一ノ宮さんが飛び込んできた。


「一ノ宮ちゃん、今日は取り込み中。ちょっとかまってる暇は……」


「そうじゃなくて」


これ、と一之宮さんが差し出したのは新聞部の号外。
 見出しは、【演劇部に悲劇!公演一週間前の大事件!】とあり、先ほどまでのめちゃくちゃだった部室と、不敵に笑う凛さんがトップだった。


「チッ……やっぱり新聞部が混じってた的な感じだね」


できればこれは公にしたくなかった、と赤間代表は呟く。


「それなんだけどりゅい」


「何かあったんですか?」


フラフラと浮いていた先生に赤間代表が視線を向ける。


「カメラの映像を見てほしいりゅい」


「カメラって、あれですか?」


俺がまさに話題に上っていた事に、廊下の方をさした。


「そうりゅい!二人とも、ちょっと来てほしいりゅい!」


赤間代表と、なぜか俺は先生について別室へ移動する。


「ちょっと端末を借りるりゅい」


丁度俺が出していた端末を何やら操作して、先生は学園のどこかにアクセスした。

 そして、一枚の動画を見つける。


「これりゅい」


時刻は昼休みの終わりごろ。部室前のあのカメラの映像だ。
 チャイムが鳴って、生徒がワラワラと部室を出ていく。
 少し早送りにして、五時間目の中ごろの事だった。


「あっ……」


恐る恐る、といった風に画面の奥――保健室のある方向からやってきた黒い服の少女。ぬいぐるみを抱えているところを見ても間違いなく、凛さんだ。
 彼女はゆっくりと部室に入って、十分ほどしてからだろうか。



「泣いてる……?」



映像を食い入るようにして見ていた代表がつぶやいた。

 フードに隠れていたが、何度も手で目をこすっている様子は泣いているようにしか見えない。
 さらに時間は過ぎて、六時間目が終わる。
 そして、少しずつ生徒の行き来が始まったが部室に入る生徒は中々現れず。


「杏ちゃん、だね」


最初に入ったのは、あの少女――杏さんだった。

 もし、あの惨状を目にしたのならすぐにでも驚いて飛び出すか、そうでなくとも何かアクションは起きるだろう、と見ていたのだが。





 一分経っても、彼女は反応を見せない。
 パラパラと早送りをしているせいもあり、時間はあっという間に過ぎて二十分近くが経過する。
 そして、廊下の奥から丁度赤間代表の姿が見えたころ。

 慌てた様子で飛び出してきた杏さんが映った。


「わかったりゅい?」


カチッと映像を止めた先生が俺と代表を見る。


「あの惨状を見たにしては反応が遅すぎる……ライムラグが、長すぎます」


「これは、当たり的な?」


十五分あればあの部屋を荒らすことは可能だろう。
 さらに言えば、あの衣装は手などで切ったというより鋏で切ったようにスッパリと切れていた。
 凛さんはそんな刃物を持ち合わせていなかったし、さすがに刃物は部室に常備していない。だが、アイテムとして裁ち鋏を持っている杏さんなら、それも可能だ。


「なら、どうして凛さんは否定しなかったんでしょうか」

彼女は自分がやったわけでもないのに肯定し、俺を拒否して赤間代表を怒らせてまで。


「まあ、あれが全部演技って言ったらかなりの実力者だと思うけど……」


「それは……」


赤間代表の言葉に、先生が言葉を濁す。


「何か知ってるんですか?」


俺が食いつくように問いかけ、先生が視線をさまよわせた。


「おいらから言うことはできないりゅい……」


「代表」


俺は先輩を見る。










「俺が凛さんを説得します」









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