ミカグラ学園組曲 欠陥品マリオネット 完結
□第五幕
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「また……また貴女なのね、凛っ!」
凛、という名前に野次馬がざわざわと反応する。
凛さんはうつむいていて、俺ではその表情が見えなかった。
「去年のなら……私に虐められたなんて嘘なら、まだ許せたわ!でももう限界よ!私じゃなくて、演劇部のみなさんに迷惑がかかるのにっ!」
ぎゅっと、ぬいぐるみを抱きしめる凛さんの手が強くなる。
「ちょ……」
「なぁんだ。ばれちゃったか」
俺が間に入ろうとしたとき。
いつものたどたどしいしゃべり方などではなくて、まるで悪戯が見つかって残念がる子供のような口調が、凛さんの声で聞こえた。
俺が振り返ると、彼女ははらりとフードを取ったところで。
青みがかった黒髪がはらりと舞った。
「ま、それは想定内。それに、演劇部に迷惑がかかるなんて百も承知だよ?」
くすくすと笑う彼女は、いつもの怯えた少女ではなくて。
誰だ、と思った。
まるで別人が乗り移ったかのような豹変ぶりだ。
「ってゆうか、このくらいで済んでよかったと思ってくれないかなぁ。衣装やら大道具を壊すなんて、前日でもできるわけだし?私の能力にかかれば、公演中に事件を起こすことだって可能な」
バシンッ
凛さんの言葉を遮るように小気味のいい音がなる。
彼女の前には、怒りをあらわにした赤間代表が立っていた。
「なんで?」
反射的になのか、凛さんは叩かれた左の頬に手を当てながら赤間代表を見上げている。
やっぱり不敵な、笑顔のままで。
「なんでって……しいて言うなら、復讐?」
「復讐?」
その言葉に、赤間代表は首を傾げた。
「そう、復讐。だって先輩たち、気づいてたでしょう?私が――部活内で虐めを受けてたことくらい」
「っ!」
赤間代表があからさまに動揺する。
彼女の話をするとき、いつも先輩たちが苦しそうな顔をするのはそういう事か。
気づいていながら止められず、さらに何らかの事件を起こしてしまった罪悪感。
「それを見て見ぬふりして、あまつさえ私が助けてといったときにも無視をした。それって、十分虐めに加担してますよね?」
だからですよ、と彼女は低くつぶやく。
「でも公演まではあと一週間。ちゃんと、できる人がそろってれば間に合う日数でしょう?」
肩をすくめた彼女はすっと背を向ける。
「それじゃ、悪役はこれで退散しますね」
野次馬たちは明らかに避けるように再び道を開けた。
その間を進んでいく小さな背中にむけて、
「凛さんっ!」