暗闇の先に
□18,緊急会議
2ページ/8ページ
「皆さん、お二人に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人を神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう。
この世界を作り上げた神よ......」
それから暫く長々とお祈りの言葉を述べたゲイブリエル。
この世界を造り上げたのが本当に神ならば、私はそんな人に祈りを捧げたくはない。
だが、そんな事を思っている最中にその場に居たみんなが"アーメン"とつぶやきはじめたせいで、私も吊られて呟いてしまった。
すると今度はスペンサーが出てきて私とダリルの元に指輪を運んでくる。
「それでは......指輪の交換を。」
そう言われ、リングピローに置かれたダリルの指輪を手に取る。
「受け継いでくれてありがとう。」
スペンサーは最後に私とダリルにしか聞こえない声でそう言い、脇に戻って行った。
「メイ、手を。」
数日前と同じようにそう言ったダリル。
私が左腕をダリルの方へと差し出すと、彼は薬指に指輪をはめてくれた。
私が左手を下ろすと今度は彼が私に向けて左手を差し出す。
......こんな風にダリルに指輪をはめる日が来るなんて思わなかった。
いつもはぶっきらぼうで照れ隠ししている彼が、こんな風に私が指輪をはめるのを待ってるなんてなんだか面白い。
そんな心情を隠しながら、左手で指輪を受け取って彼の薬指にはめる。
すると外野から大きな拍手が巻き起こった。
「それでは誓いの...って......」
そこまで言うと言葉を詰まらせたゲイブリエル。
ダリルはあの拍手に乗せられ、彼の言葉を待たずして私にキスをしたのだ。
どうせ形だけの結婚式なんだからこれぐらい私達らしい方が丁度いい。
チラリとリックやカール、ミショーン、キャロル、マギー、グレン、サシャ、アーロン、デニスが目線に入るとみんなが私達に微笑んでいる。
きっと他のみんなも私達に笑顔を向けてくれているだろう。
その夜はパーティが開かれた。
マギーがパウンドケーキを焼いてくれ、キャロルが住人達と作ってくれた豪華なディナーが並ぶ。
お腹が十分に膨れ、みんながお酒に酔いはじめたところで私はこっそりとパーティを抜け、家のポーチに腰を下ろした。
この雰囲気は母の2度目の結婚式を思い出す。
式の後、こんな風に身内だけでパーティをした。
私は祖母と料理を作り、義父の知り合いだというパティシエさんがケーキを持ってきて...みんなで二人の結婚を祝った。
その時は数年後にこんな世界になるなんて誰も知らず、幸せな未来を想像しながら騒いだことをよく覚えてる。
そういえば私が結婚式を挙げる時にはママが着たドレスをくれるって...
祖母が私が着るには少し地味だろうからビーズを刺繍してくれるなんて言ってたっけ。
結局そのドレスを着ることはできなかったなぁ。
私は胃のあたりが締め付けれるのを感じ、その後で涙がポロポロと溢れ出した。
「おいおいメイ、中に入らねぇのか?」
声をかけてきたのは結婚したばかりの旦那さんだ。
ついさっきまで私に優しい顔を見せていたダリルだが、私が泣いていることに気がつくと、表情が少し硬くなった。
「ごめん...気にしないで?
少し色々考えてただけだから...ほら、マリッジブルーってやつ⁇」
マリッジブルーとは少し違うけど、今の気持ちを表現するには丁度いい。
「結婚...イヤだったか⁇」
私のすぐ隣に座り、私の右手をマッサージしながら小さな声でそう呟いたダリル。
彼は私のそばに来るといつもマッサージしてくれるようになっていた。
「イヤじゃない。
すごく嬉しいんだけど...なんて言うか......」
私はそう言ってからダリルの肩にもたれ、自分の気持ちを落ち着かせる。
「思い描いていた結婚とはかけ離れてて...
なんていうか......全部変わっちゃったんだなって。」
私が涙の理由を話しても、ダリルは何も言うことはなかった。
「こんなこと言っても困るよね...ごめん。」
そして私は静かに謝り、まだ溢れ出ている涙を拭いた。
「別に謝ることじゃない。
俺だってこうなるとは...自分が結婚するとは思ってなかった。
メイだってそうだろ?」
そう言われてみればそうかもしれない。
私は男の人を好きになって結婚するなんて...思ってもいなかった。
「いくら過去を懐かしんだってそれは過去なんだ。
だからあんまり気にするな。」
そう言ってダリルは私の左手を取りながら立ち上がると、パーティー会場の家から私を連れ出した。