暗闇の先に

□16,成長
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診療所に響き渡る機械音に取り乱したデニスは勢いよく電源を抜く。


「デニスは出来ることをしてくれたし、仕方ないわ。

彼女が助からなかった原因があるとすればそれは......彼女がが戦う術を知らなかったことよ。」


そう言ってホリィの頭にナイフを刺して包帯や消毒液、ガーゼ、テープを持って再び外へと向かう。


「アーロン、ケガの手当してもいい⁇」


診療所を出てすぐの道にいたアーロンに声をかける。


「......あいつらは俺の写真を持ってたんだ。

前に置いてきてしまった写真を。」


アーロンの手には初めて出会った時に見せてくれた写真が握られている。


「誰のせいとか考えるだけ無駄よ。

こんないい場所、誰だって奪いたいだろうし。」


アーロンにそう言い聞かせて彼の額の傷の手当をする。


「ねぇ、鞄の中を見せてくれない?」


彼がスカウトの時に使っていた鞄なら無線機があるはず。


外に居たリックにもあの音は聞こえているだろうし、報告した方がいいだろう。



無線機を見つけた私はリックがいつも使うチャンネルに合わせる。


「リック、メイだけど...聞こえる?」


すると20秒もしないうちにリックからの返答が返ってきた。


「どうした?
町の方から音が聞こえたぞ⁇」


やっぱり銃声やクラクションは聞こえていたらしい。


「町に侵入者が来て、住民が何人か死んだ。

今は落ち着いていて、手当して回ってるんだけど報告だけでもと思って。」


「そうか...こっちは少しトラブルがあって、作戦を実行することになった。

町に引き返せなくて悪かった。

カールとジュディスは?」


トラブル?...仕方ないことなのだろうけど大丈夫なのだろうか。


「カールが家でジュディスを守ってくれてたから2人は無事...もちろんマギーもね。

それよりトラブルって大丈夫⁇」


「まぁ何とかやってるが...音で半数近く森へ逸れて行った。

誰も外に出さないようにしてくれ。

何人かが対処に回ってくれたがそれじゃ追いつかない量だ。」


リックは真剣な口調でそう言う。

何体もこちらに向かっているとは...。


「わかった。

作戦、頑張ってね。」


そう言って無線を切った。


前にウッドベリーで見たような木の罠をここにも何個か作るべきかもしれない。

あの町から学ぶのは腑に落ちないが警備が完璧だったのは確かだ。


今度リックに相談しよう。


「メイ...今夜、少し話がある。」


今度はダリルからの無線だった。


ダリルの声とは別にノイズのようなバイクのエンジン音も聞こえる。


一体なんの話だろう。


まさか...トラブルで噛まれたとか⁇


そんな心配さえ頭をよぎってしまう。


「わかった...ダリル、ちゃんと無事に戻って来てね。」


そんなことないって自分に言い聞かせるように言う。


「任せとけ。

お前こそ外に出るなよ⁇」


「そんな余裕ない。

手当して回るので手一杯だよ。」


最後にダリルにそう言ってから無線をズボンの後ろポケットにしまい、次の手当に向かった。


「キャロル、ケガはない⁇」


血でWの文字を額に書き、すっかり奴らに変装しているキャロルを見つけ、尋ねる。


「えぇ。」


その言葉を聞いた私は次の人の元へと向かう。


みんなの手当を一通り終えると、自分の手当をする為に診療所へと戻った。


「はじめからメイがここにいればホリィは助かったかもしれない。」


「へ?」


「負傷者が出るのがわかってたのにあなたが外に行くから‼」


突然そう言いだしたデニス。


「でも私は...自力でここまで来れるかもわからない負傷者を待つことより、すべきことをしたと思ってる。」


言い寄ってきたデニスに言い返すと、彼女は黙った。


「誰かに責任転嫁したい気持ちはわかるけど、結果がどうあれ貴方はすべきことをした。

私だって外でみんなを守れなかったんだからおあいこじゃない?」


そう言って彼女を慰める。

彼女はここを乗り越えないときっとこの仕事を降りてしまう。


「貴方は目の前にある問題を出来ることから解決すればいい。」


私はそう言ってから服をまくり、デニスに傷口を見せる。

なんだか上から物を言ってしまったような気がして、少し後悔した。


「わかった。......座って?」


彼女はそう言うと手当をしてくれる。


「でも...全部任せてしまってごめんなさい。

みんなその時に出来る精一杯をしてたんだし、誰も文句は言わないわ。

それに...グループに医者が居るってだけ充分支えになってる。

精神科医の貴方ならわかるでしょ?」


そう言うとデニスはやっと少し笑顔を取り戻した。


「それじゃデニス、ありがとう。

外の遺体を片付けなきゃいけないから行ってくるね?」


そう言ってガーゼの上からさらにタオルを当て、痛みを軽減させるようにウエストポーチを付けると、ホリィの遺体を抱えて外へと行った。
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