暗闇の先に

□7,それぞれの弱み
2ページ/8ページ


「ねぇ、切ってもらったんだけど、どうかなぁ⁇」


私は破られたフェンスの修理をしていたダリルに言った。


「いいんじゃねぇの?」


「なんか適当...。」


素っ気ない返事をするダリルに、私はそう答えた。


「ねぇ......ありがとね。」


私は、ここに戻って来てからずっと言いたかったことを言った。

ダリルは何も言わなかったけど彼はそういう人。


「ダリルが連れ出してくれなかったら、私はあそこから出れなかったよ。」


「...お前は俺が行かなくてもきっと出てた。」


ダリルはそう言ったがきっと無理だったろう。

外に出て男達から解放されても私はここに戻ることなんて無かったはず。
...外に出てウォーカーに囲まれて、私は死んでただろうし。


「私にそんな勇気ないよ。
...私はダリルが思ってるほど強いわけじゃないもん。」


私がそう言うと「なら、俺が守ってやらなきゃな。」と言った。


「...まずはお前を守るフェンスを直す。」


そう言って作業に戻ったダリルを見て私は微笑み、すぐ側に座った。


向こうの方でアクセルの為の穴を掘っているリックとメルルが見える。


「私の事で無理しないでね。」


私を守るためにダリルが死んでしまうのは嫌だ。


「それは無理だな。」


そう言うと思っていた。

...だってそれがダリルだもん。


「じゃあ...強くなって?」



向こうにいる2人は穴を掘り終えたのか、こちらに向かってきた。


「今から埋葬しよう。
...俺とメルルでアクセルの遺体を運んでくる。
メイはみんなを呼んできてくれ。
ダリルはキリのいい所までいったらこっちに来てくれ。」


「あぁ、もうすぐだ。」


リックの言葉にダリルはそう言った。

そして私達はそれぞれ動いた。



私が居ない間に総督に殺されたアクセル。

彼はきっといい人だった。

私の手当てをしてくれようとした事もあった。
...けど、警戒心の方が勝ってしまった私は彼に酷いことをしたんだ。

彼の優しさを疑ってしまった。


こんな世界だから仕方ないと思うけどそういう問題じゃない。

これからはちゃんと判断出来るようにならなくちゃ...。





埋葬を終えると私達は食事を取った。

ベスとマギーが歌を歌い、キャンドルを並べる。

カールはジュディスにミルクを飲ませ、ダリルはスープをおかわりしている。


そんな日常が戻ってきたんだ。


「ミショーンはアンドレアどのくらい旅をしたの⁇」


私はすぐ隣に座っていたミショーンに聞いた。


「ここみたいに安全なところは無かった。
毎日何処かしらの家や店を転々としてたよ。」


やっぱりみんな、奴らと戦うしかないんだ。


「アンドレアと会った時、私は空に登る煙の方へ向かってたんだ。
あいつらに煙なんか出せるはずないし、誰か居るのかと思ってね。」


「それ、私達だよ。
農場にウォーカーが沢山来て...逃げる為に奴らの気を引いたんだ。
......でもよかった。
アンドレアは私達とはぐれた後、すぐにミショーンと会えたんだね。」


私がそう言うとミショーンは頷いた。


「明日は俺とミショーン、カールで物資を探しに行ってくる。

...奴らと戦う準備をするんだ。
あいつらはきっとここを攻撃しに来るはずだ。」


リックはみんなの食事がひと通り終わった頃を見計らって、私達に言った。

総督が攻撃しに来る...そうなるって分かっていても、やっぱり怖い。


「見張りしてくる。」


そう言って席を立ったのはダリルだった。

私はダリルが置きっ放しにした食器を重ね、洗い場へと持って行き片付けた。


「ねぇメイ、ジュディスのミルク作ってくれない⁇」


声をかけてきたのはカールだった。

私は途中の洗い物をそのままにし、綺麗に洗ってある哺乳瓶を取り出し、ミルクを作った。


「カール、出来たよ⁇」


私が作り終えたミルクを持って行くと、ジュディスはリックに抱かれてご機嫌そうだった。


「赤ちゃんって、このぷよぷよの頬っぺたが可愛いんだよね〜。」


そう言いながら私がジュディスの頬っぺたを触っているのをジッと見ていたカール。


「カールもまだまだぷよぷよだね。」


私がカールの頬っぺた触るとカールは「ぷよぷよなんかじゃないよ。」と照れていた。

それから私は途中だった洗い物をした。


次々に運ばれてくる食器。

流石にみんな綺麗に食べられていて、洗いやすい。


私は洗い物を終え、階段部分に座った。

まだ寝れそうにない。


「メイ、君の傷の手当てをしたいんだがちょっといいかな⁇」


そう言ってきたのはハーシェルだ。


「...大丈夫だよ。
見た目ほど痛くはないもん。」


「本当か?」


そう聞き直すハーシェルに「大丈夫。」と笑って見せた。

大丈夫、なんて言ったけど、ひとつだけ不安な事がある。


もし、妊娠していてたらどうしよう。

あれだけ沢山の男にやられた。

もし出来てたら、私はその子を愛せないだろうし、その子を生かすことなんて出来ない。


「何か出来ることがあるなら、言ってくれ?」


ハーシェルはそう言うと、自分の独房へと入っていった。


それぞれが独房へと入っていき、リックとカールはジュディスの様子を見ると2人で外に行った。

見回りか...。

私もそろそろ寝よう。


そして私は自分の独房へと入った。


...布団をかぶり、横になると思い出すのは昨日のこと。

思い出したくない、って思っていても思い出してしまう。


もう嫌だ。

思い出したくもないはずなのになんで思い出しちゃうんだろ...。

昨日の事だけじゃなく日本にいた時のことまで思い出す。


いつしか私の頭はパンパンになり、眠ることが出来なくなっていた。

私は刑務所をそっと抜け出し、見張り塔へとやってきた。


「ここにいても良い?...寝れなくて。」


私がそう言うとダリルは何も言わず、私の座るスペースをあけてくれた。


「思い出しちゃうんだ...何もかも。

ほんと、忘れられたらいいのに...」


そう言って涙を流した私。

そんな私に横に寄り添うように横に座り、涙を拭いてくれた。


「思い出したっていいじゃねぇか。

今、お前は安全な所にいる。...それで十分だろ?」


私は安全な所にいる...ダリルのその言葉が深く胸に突き刺さる。

...こんなに安全な所にいるのになんでこんなに不安なんだろう。

なんでこんなに涙が出るんだろう。


「メイは何も心配する事ねぇ。」


そう言って甘えさせてくれるダリル。

震えている手を優しくさすってくれるダリル。


...けど甘え慣れてない私にはどうしていいのかさえも分からなかった。





翌朝、気がつくと私は眠っていた。


「ん...私、寝てた⁇」


「ぐっすりな。」


すぐ横で見張りをしながらそういうダリル。

夜の見張りは交代制のはずなのに...もしかして、ずっとそばに居てくれた⁇


「リックは⁇」


私は目をこすりながらダリルの方を見ると、眩しい朝日に目がやられた。


「お前が寝てたからな...一晩中ここにいたよ。」


そう言うとダリルは私に双眼鏡を渡して横に座り、目を瞑った。


...なんだかいい夢を見れた気がする。

ダリルのおかげで、ぐっすりと眠れたんだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ