暗闇の先に
□5,狂った世界
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リックはハーシェルの足に噛み付くウォーカーを見つけると、持っていた銃で頭を打ち抜きハーシェルを助けた。
「父さん‼」
銃声を聞き、駆けつけたマギーは噛まれたハーシェルを見て泣き叫ぶ。
「おいおい、ウォーカーが来たぜ。」
その言葉に私はダリルの横に行き、一緒に矢を飛ばしてハーシェルを安全な所へ連れて行けるように援護した。
「ダメだ‼
こっちだ。こっちだ‼」
そして必死にたどり着いた場所は食堂だった。
担架代わりになりそうな台にハーシェルを下ろすと、リックはベルトで太ももを縛り、自身の持っていた斧を振りかざし、ハーシェルの脚を切断する。
「あっ...」
私はあまりの光景に言葉を失ってしまう。
「メイ、平気か?」
横にいたダリルは私の目をジッと見た。
「...嘘でしょ⁇」
仕方ないとはいえ、あまりにも酷すぎる。
そしていつの間にかダリルの目線は私からずれていた。
「伏せろ‼」
そう言ってダリルがクロスボウを構えた先にいたのは、人間だ。
「メイ、ハーシェルの傷口を見てくれ。
...メイ‼」
けど私はリックの問いに答えることができなかった。
ハーシェルは噛まれてリックが足を切断。
向こうには武器を持った男達...。
私はその場に座り込んでしまった。
みんながお父さんに見える。
リックが足を切った光景が頭の中で繰り返される。
「メイ‼早く見てくれ‼
何の為にハーシェルに教わったんだ‼」
「だけどあなたがやったのよ?
...こんなのって「何もやらずにウォーカーになるよりマシだ‼
メイ、頼むから手を貸してくれ。」
リックは話しながら私の目の前にしゃがみ、目線を合わせてそう言った。
リックの手や服に飛び散った生々しい血が私を正気に戻させる。
「...ごめんなさい。
出来るかはわからないけど...見てみる。」
そう。
今は常識なんてものは無いんだ。
何もかもが狂った世界なんだ...。
ハーシェルの血は止まりそうな予感はなく、ガーゼや包帯が必要だった。
「何か使えそうな物はないの?
水で傷口を流して...清潔なガーゼや包帯で抑えるべきだわ。」
私は誰かに頼もうとしたがグレンとダリルとリックは囚人達、Tドックはウォーカーの扉にと、みんな手一杯なようだ。
勿論マギーはハーシェルのそばを離れようとはしないし...。
「リック、運びましょう。
ガーゼとはいかないけど、タオルや布で手当はしたほうがいいわ。」
私の言葉にリックはTドックと何やら話しをし、ドアを開ける。
「Tドックと俺で道を作る。
グレンとメイとマギーでハーシェルを連れて行け‼
ダリルは後ろを頼む。」
そう叫ぶと、リックはTドックと共にウォーカーを倒し始めた。
横にいたグレンとマギーもウォーカーを倒してくれている。
...私はただ、ハーシェルを独房に連れて行くのに必死になった。
「カールっ‼鍵を開けて‼‼急いで‼‼」
独房の入り口の近くにたどり着くと、私は叫んだ。
私の声に反応したカールの影がこちらから見える。
「父さんっ‼」
台の上で気を失ってるハーシェルを見て、ベスは泣き叫んだ。
「ベス...父さんは生きてるから。
きっと、ウォーカーにもならないわ。」
マギーはそう言ってベスを宥めた。
「カール、タオルや布を持ってきてくれない?なるべく清潔そうなやつ。…あと水も。」
そして私達はハーシェルをベッドに下ろし、傷口を洗い、タオルで傷口を抑える。
途中、リックが万が一の為にとハーシェルに手錠をし、ベッドに拘束させた。
「...今はこれぐらいしか出来ないわ。」
そう。
今ある物資じゃこれが限界。
「グレン...今すぐ医務室を探しに行かないと。」
ハーシェルの独房を出ると私はグレンに言った。
「今は無理だよ。
リック達が居ないんだ。」
そういえば、周りを見回しても男はグレンしか居ない。
「けど、今すぐ物資が必要よ?
...あなたが一緒に行ってくれないなら、私が1人で探しに行く。」
そう言って自分の独房に戻り、クロスボウを取りに行った。
「メイ、頼むよ。
リックに頼まれてるんだ。」
独房に行く間、グレンはそう言った。
「今行かないとハーシェルは感染症を起こしたり、血だって止まらないし...死んでしまうわ。」
「みんなが帰ってきたら行くようにするから...頼む。」
そう言うと、グレンは私の手からクロスボウを奪った。
「ちょっと‼」
「従ってくれ。」
グレンそう言って、私のそばを去って行く。
これでハーシェルが助からなかったら、私のせいとか言うくせに...。
なのにこんなやり方...。
少し経つとカールが大きなカバンを私達の方に放った。
「使えそうな物を見つけたよ。
まだ少しだけ、向こうにもある。」
カールの言葉に怒鳴り声をあげたのはローリだった。
「...ちょっとカール‼1人で行ったの?
いつも勝手な行動しないでって言ってるじゃない‼
ウォーカーに襲われたらどうするの⁇」
「ウォーカーなら倒したよ。
それに...必要そうだったから。」
カールはそう言うとそのまま隣の独房に行ってしまった。
「言ってるじゃないじゃなくて、あなたが見てたらどう?」
私はローリにそう吐き捨て、カールの持ってきてくれたガーゼでハーシェルの傷口を手当てし独房に戻る。
少しひとりになりたい。
こんな世界でひとりになるなんてどうかしてるけど、ひとりになりたかった。
リックがあんな事をするとは思わなかった。
...けど、ここにいる人たちもお父さんと同じ男の人なんだ。
力もあれば罵声だってあげれる。
私は何をしてるんだろう。
この、血の染まった手で何をしてるんだろう...。
私が独房にこもって2,30分後、リック達が帰って来るのが分かった。
「食料だ。まだあるぞ‼」
「メイ、今日はご馳走だぞ‼」
「そう。」
ダリルはわざわざ私の側まで言いに来たが私は素っ気なく返事をした。
「なんだよメイ。」
そう言ってダリルは私の隣に座った。
ダリルだって男の人だ。
この人だって...。
「ごめんなさい。」
私はジッとコンクリートの壁を見つめて言った。
「メイ?どうした⁇」
「言ったでしょ?男の人が苦手だって。
...さっきのリック、お父さんと重なって見えたの。
力任せに斧を振りかざして...何度も...何度も。」
私は正直に答えるしかなかった。
今更、言い訳なんて物は浮かぶわけがない。
...確かなのは頭の中にある恐怖心だけ。
「メイ、俺を見ろ。
俺はダリルだ。それにさっきのはリック。
あれはハーシェルを助ける為にした事だ。...わかるか⁇」
ダリルは座っていたベッドを離れ、目線を合わせて話した。
「分かるけど...頭では分かってるけど...「考えすぎんじゃねぇ。
お前が俺やリックを避けたとしても、俺達はお前の仲間だ。」
ダリルはそう言ってみんなの所へ戻って「メイは少し疲れたから休むってよ。」と、私にまで聞こえる声で言った。
あれから私は色々と考え込んだ。
...もしリックが本当にお父さんのような人間だったら...
もしダリルが手をあげたら...
もしハーシェルが私を恨んだら...
色んな可能性にビクビクした。
「メイ、体調はどう?
父さんが目を覚まして...あなたと話したいって。」
「分かった。」
何を言われるかはわからない。
もしかしたら激怒されるかもしれない。
私は気が重いまま、一階へと降り、ハーシェルのいる所へと向かった。
そこにはすでにリックが来ていて、檻の扉に身体をもたれ掛けさせていた。
「あぁメイ...もう一度、娘達に会わせてくれてありがとう。
リックとメイが居なかったらきっと助からんかっただろう。」
その言葉にそれまで抱えていた色んな物から解放され、体の力が抜けると同時に涙をこぼした。
今は生きるか死ぬか。
出来ることをしなければいけないんだ。
「メイ?なんで泣く⁇」
私を心配してくれたのは他でもないリックだった。
そしてしゃがみ込んでしまった私を支えてくれる。
「何でもないよぉ...リック...ハーシェル...みんな...ありがとう。」
ちゃんと割り切らないと。
大丈夫。お父さんはもういない。
ここにいるのは私の仲間なんだ。
ダリルに、リック、ローリー、カール、キャロル、Tドック、グレン、ハーシェル、マギー、ベス。
最高の仲間達なんだ。