暗闇の先に
□5,狂った世界
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数ヶ月、ずっとその場しのぎの生活を続けてきたがそれもそろそろ限界だ。
ローリは臨月が近づいていてお腹はかなり大きくなっている。
...どこか安全な場所に移動しなければいけない。
そう思いつつもそんな場所は見つからず、今夜も何処かで野宿になりそうだ。
私は森で汲んできた水を煮沸させる。
もうこんなことも慣れっこだ。
「おい、向こうに空き家があった。
ウォーカーはいなさそうだし...今夜はそこで寝よう。」
リックの呼びかけに私は火を消し、Tドックの運転するトラックに水の入ったバケツを乗せてダリルのバイクに乗り込む。
農場を去ってからのリックは人が変わってしまったようだった。
決して悪い人なわけじゃない。
...私達のことを考えすぎて少し頭がパンクしている。
ただ、その必死さが怖くて私はリックと少し距離を置いた。
空き家に行き、ローリとキャロル、ベス、ハーシェル以外で家の安全確認と物資を漁りをする。
だけど見つけれたものはほとんどない。
カールはキッチンからドックフードを見つけたみたいだけど、食べる気にはなれない。
そしてカールが缶詰を開けようとしていたところをリックに見つかりリックは缶詰を取り上げた。
ダリルはフクロウを見つけたらしく羽をちぎっている。
「メイも食うか?」
ダリルの言葉に私は首を振った。
フクロウなんて食べれるわけがない。
「来たぞ...」
窓から外の様子を見ていたTドックは言った。
ここのところまともに休めていない。
それに...今夜も野宿になりそうだ。
そして私達はさっき下ろしたばかりの荷物を持ち、裏口から外へと出る。
そして来た道を引き返し、車を止めたところまで戻った。
「...この辺りはダメだ。」
リックとハーシェルは地図を広げ、行き先について話している。
そして私とダリルは近くの見張りをした。
『ぐうぅ〜っ...』
つい鳴ってしまった私のお腹。
「さっきフクロウ食っておきゃ良かったろ。」
ダリルは私の意思と反した音にそう言う。
「フクロウなんて...。」
最近はまともに食事をしていなかった。
食べ物を確保できても満腹に食べれるのはローリやカール、ベスやリック。
それにたまに立ちくらみが起きることもしばしばある。
そしてダリルはリックたちの方に行ってしまった。
ダリルとリック、ハーシェルの決断で今日も野宿。
ダリルは暗くならないうちに狩りへ出るみたいだ。
「今夜は腹一杯にさせてやる。」
ダリルは出かける前に私にそう呟いてから出かけていった。
それからグレンとTドックに見張りを任せ、私は少し休ませてもらう。
少しウトウトしかけた頃、ハーシェルがこちらに来た。
「メイ、ローリはきっとそろそろだと思う。
次の拠点を見つけたら、きっとそこで新しい命が生まれるだろう。」
ハーシェルは私に覚悟するように伝えると、マギーやベスの元へ行ってしまう。
私は看護師でも助産師でもないのに...。
そして少しの間、夢を見た。
ママとお義父さんの夢。
私とお義父さんがママの出産に立ち会って...何故か私が赤ちゃんを取り上げた。
生まれた子は私の妹で、ソフィアと名付けられた。
お義父さん譲りの少しブロンドの混じった髪色にママ譲りの茶色の目。
すごく幸せな夢だった。
だけどよりにもよって名前がソフィアなんて...。
そして私は周囲のざわめきによって目を覚ます。
どうやらリックとダリルが帰ってきたらしい。
「新しい住居を見つけた。
何体かのウォーカーを片付けなきゃならないけど、かなり安全だ。」
リックの言葉にグループみんなの表情は明るくなる。
「今すぐにでも行こう。」
ハーシェルはローリーを見てからリックの方に視線を向けた。
合図に気づいたのかリックは頷き、私達に詳しく説明をする。
場所はここから1km先の刑務所。
フェンスを閉じてしまえば、中にウォーカーは入ることができないらしい。
「カール、ローリー、ハーシェル、ベス、キャロルはフェンスの外から。
俺とダリル、グレン、Tドック、マギー、メイはフェンスの中に入り、ウォーカーを倒しながらフェンスの扉を閉めに行く。...いいな?」
リックは淡々と作戦を私たちに伝えると武器を探しに行った。
「メイ、気をつけろ?俺から離れるな⁇」
ダリルはじっと私を見つめながらそう言った。
刑務所は想像してたよりも住みやすそうだ。
こんな世界になるまで刑務所が最高だなんて思う事は無かっただろう。
けど、フェンスがあって遠くまで見渡せそうなこの刑務所は今の私達には天国のようなものだ。
「フェンスを塞げばウォーカーは中庭に入って来れない。」
「...けど、そんなの誰が?」
リックの言葉に私はそう言った。
「僕は足が速いから...「ダメよ。危険すぎる。」
名乗り出たグレンを止めたのはマギーだった。
「...俺が行く。
カールとハーシェルとキャロル、ダリルとメイは見張り台から俺を援護しろ。
他の奴はフェンス越しにウォーカーをおびき寄せるんだ。」
リックは的確に指示を出した。
「行くぞ?」
リックの掛け声でフェンス組が一斉に大声を発し、ウォーカーを引き寄せる。
その隙にリックと私達、援護組がフェンスの中に入り指示された見張り台への階段を駆け上がった。
そしてリックがフェンスを閉じ、中のウォーカーが全滅するまでひたすら引き金を引き続ける。