like a rainbow

□ギルティ
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朝食を終えるとヤスは父の本棚からいくつか本を持ってきて読み、私は昔の部屋を物色して懐かしさに浸る。


面白いものを見つける度に読書中のヤスに見せる私だが、ヤスは嫌がらずにちゃんと返事をくれる。


それが凄く心地よかった。


夜には缶ビールを片手にビーチに散歩に行き、昼とは違う夜の空気が気持ちよくて鼻歌まじりにビーチを歩いた。



次の日はお昼頃に起きて、滞在していた間に使った部屋の掃除やゴミ出しを終えてシドニーへ向かう。


寮に戻る前には近くのレストランに行って夕食を取った。


「やっぱ日本食の方がうまいな。」


そう言いながらヤスはシーフード料理を頬張っていた。


「まぁそうだよね、カキフライとかお味噌汁とか。」


「カキフライとか言うなよソフィー。

余計食いたくなるじゃねぇか。」


そう言って悔しそうな顔を見せたヤス。


「...なら、明日のお昼に作ってあげるよ。

部屋にキッチンあるし。」


私はそう言って微笑む。


するとヤスは満足そうな表情をして、牡蠣グラタンを口に入れた。


その後で近所のスーパーに寄り、買い物をして帰った私たち。


「シナモンズが住んでる割には普通だな。」


マンション兼寮のエントランスでそう言ったヤス。


「まぁね...寮みたいなものだから。」


相当意外だったようでその言葉に驚いたような反応を見せたヤス。

警備員に任せていた不在中の郵便物を受け取り、エレベーターが到着するのを待つ。


着いたエレベーターに他のアーティスト達が乗っていたおかげで後輩君達からの挨拶の嵐に巻き込まれる。


みんなヤスの存在に気づいていながらも気を使って話題にはしない。

そんな同業者らしい気遣いにホッとしながらもエレベーターに乗り込んだ。


「ちなみに両隣はハンターとネイトだよ。


地下にはスタジオやジムがあって、一階には資料室、カラオケ、打ち上げ用のホールがあるの。」


「寮っていうか...もはや施設だな。」


ヤスはそう言う。


「でしょ。父は音楽のことになると普通じゃないから。

でも結局、便利だから引っ越す気にならないんだよね。」


私は苦笑いを浮かべて言った。


ヤスは微笑み返しながらも到着したエレベーターの扉のボタンを押して私が出るのを待ってくれた。


廊下を歩くと、ハンターの部屋からベースの音が聞こえる。


実家に行くなんて言っていたけどそれはきっと私とヤスに気を使わせない為の嘘だろう。


私はそんなハンターの優しさを感じながらも部屋に戻った。

狭い室内に広がった楽譜をファイルに、ギターやベースをスタンドに戻してスペースを広げる。


「広げててごめんね。

ここで集まること結構多いから。」


そう言って持って帰ってきた荷物をクローゼットの空いたスペースに押し込む。

リビングにいるヤスの方を振り向くと、ヤスは棚の一番上に置いていたCDプレイヤーとCDを手に取っていた。


大切なものばかり並べた棚にはトロフィーや写真を飾っている。

中でもその一番上にはママの日記や初めてコピーしたQueenの楽譜、さらにヤスから貰ったCDプレイヤーとCDを並べていた。


「こっちに来る時にヒビが入っちゃったんだ。」


ヤスが手に取ったCDケースのヒビをなぞるように触れる。


「つーか、まだ持ってたんだな。」


ヤスは優しい声で言った。


「もちろんだよ、宝物だもん。

聞きすぎて音が飛んじゃうんだから。」


「新しいの買えよ。」


ボソリと呟くように言ったヤス。


「それじゃ意味ないんだよ、これがいいの。

...っていうか持ってるし。」


ヒビが入ったことがショックでこっちで買った封すら開けていない豪州版のアルバムを見せる。


ヤスは小さく微笑んで私にキスをすると、私の手からCDを取り棚に戻してそのままベッドに連れて行った。


「ヤス...シャワー浴びてから......「んなのどうでもいいよ。」


そう言ってヤスが私の口を塞いだせいで、それ以上言葉を発する事が出来なくなってしまった。




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オーストラリアに来たばかりの頃、辛いことがある度に、泣いたこの部屋でこのベッドで、ヤスとこんな風に過ごせるなんて思ってもなかった。


そう思うとあの辛かった日々も愛おしく思えてくる。


良いことも嫌なことも...どんな出来事も全て未来に繋がってると思えたよ。


たとえ未来がどんなものだったとしても......。



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