暗闇の先に
□27,強くなって
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誰かが帰ってきた時、いち早く出迎えるためにソファーで寝落ちていると夜遅くにカールが戻ってきた。
「ごめん、起こしちゃった⁇」
私が起きたことに気がつくとカールは言った。
「いいの。おかえりなさい。
何か食べる⁇」
私はソファーから身体を起こして言った。
「メイは寝てて⁇
ここにあるの、勝手に食べるから。」
カールは静かに言ったが、そういうわけにもいかない。
「私の唯一の仕事、とらないで。」
そう言って微笑み、スープの入った鍋に火を入れる。
「......ほかに誰か戻ってきた⁇」
「タラが帰ってたと思うけど...他は誰も。
ミショーンとロジータがサンクチュアリを見に行くって行っちゃったし。
そうだ、これ。ジュディスがあなたにって。」
昼間、ジュディスと一緒にデザート用のクッキーを焼いた時にジュディスがカールにって作っていたのハートの形のクッキーを見せる。
カールはクッキーを見た途端、満面の笑みを浮かべて微笑んだ。
「これは明日、ジュディスと一緒に食べなきゃね。」
「それで?俺には何を作ってくれたって⁇」
私がダイニングテーブルにもたれかかり、カールと話しているとダリルが家に入ってきた。
私はパッと玄関の方を振り返る。
「おかえり!」
ダリルはゆっくりと近づいて来てくれて私を腕の中にスッポリと収める。
「何か食べる?色々作ってあるの。」
私はそう言いながら手に届く範囲にあるお皿をダリルの方へ引き寄せる。
「あぁ。腹ペコだ。」
ダリルはそう言って一旦私から離れるとフォークを持ってカールの隣に座った。
「リックは計画通りに進めようと必死だが、俺はそんなことより早く決着付けるべきだと思う。」
その日の夜、ダリルがバイクで転倒した時にした怪我の手当てをし、破けてしまったというズボンを繕っているとダリルは言った。
「どうやって?」
ダリルに尋ねる。
たしか当初の予定ではサンクチュアリをウォーカーに囲んで、降伏させるって手順だったはず。
「もう、王国は戦えない。
建物の扉を爆破させるなり、トラックで突っ込むなりして中にウォーカーを入れる。
......その方がずっと早い。」
ダリルは静かに呟いた。
私は作戦に意見できる立場じゃないけど、連合軍はすでに大きな犠牲を払っているし、ダリルが焦せる気持ちもよく分かる。
「どうするにしても、単独行動は良くないよ。」
私が言えることはたったこれだけ。
確実な方法を選んで欲しいけど、それは私が頼めることじゃない。
こんなことを言ったって、私がダリルと一緒に行けるわけでもない。
「もうして来た。時期に降伏する。
そういや、救世主の中にモラレスがいた。
覚えてるか?アトランタで別れた...「私も見かけた。
あそこで拘束されてる時、廊下ですれ違ったの。
向こうも気づいてたわ。」
サンクチュアリでの記憶を辿り、ダリルに話す。
「奴はすっかり変わってた。俺やリックは怪物だとさ。
......悪い。嫌なこと思い出させちまったな。」
私が色々と思い出して無言になってるのを察してか、ダリルは言った。
「平気...向き合わなきゃ。」
これが私で、今まで生き抜いて来たのは私が培ったもの。
ちゃんと自信を持って私らしく居よう。
そう言って私はズボンを畳んで置き、ベッドに横になるダリルの腕の中に入り込んだ。
そして、全てが始まったのは次の日の夜だった。
数人はまだ外へ出て行ったりしたものの、カールがジュディスと遊んでたり、住民が洗濯や畑仕事をしたりして日常が戻り始めた気がしていたが、そう簡単に物事は進んでくれないらしい。
「なぜ監視が警報を鳴らさなかったか分かるか?」
ダリルとロジータに使うガーゼを取りに診療所に行った帰りに門の扉を叩く音が聞こえ、そのすぐ後でニーガンがマイクで話し始めた。
「俺たちは礼儀正しい。
いつ目覚めるかは分からないが彼らは必ず目覚めるだから端的に言おう。
お前達の負け。終わりだ。
それぞれの家の前に並び、謝ってもらう。
一番下手な謝罪をしたものを殺す。
そして、全員の前でリックを殺す。
3分待ってやる。
門を開けなければ爆弾の雨を降らせる。」
それからニーガンはいつもの口笛を吹き始めた。