暗闇の先に
□18,緊急会議
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「今はいない。」
どうやらダリルはまだ怒っているらしく、ジーザスにそう言い捨て、さらに私を守るかのように私の隣に来てくれる。
「出会いは最悪だったが同類だ...生きている。
置き去りにもできたのにそうしなかったろう?
俺が住む町は取引相手を増やしたい。
車を奪ったのは君たちが厄介な人間に見えたからだ。
だが間違ってた、いい人たちだ。協力し合えると思う。」
ペラペラと本当か嘘かも分からない言葉を話し始めた彼。
取引?協力⁇
...この世界でそんなこと......できるはずがない。
「食料が?」
そう思った私とは正反対にグレンは興味深そうに彼に質問をした。
「家畜を育ててるし農園もある...トマトや穀物も。」
「信用できない。」
リックのその言葉に私も頷く。
「連れて行くよ。車なら一日で着く。」
町について話すその様子は、数ヶ月前にアーロンにアレクサンドリアについて説明された時とよく似ている。
もしかすると彼が話す町というのは本当に存在しているのかもしれない。
...だけど今までのことを考えると、彼のことを信用していいのかはわからない。
「わかった、みんな準備を始めろ。
カールとダリルは車を。
ミショーンとマギーで俺たちがいない間の警備の手配を。
他のみんなもそれぞれ支度をするんだ。」
リックがそう指示を出し、彼を部屋の柱に固定させる。
「準備ができるまでここに居るんだ。」
私は一度家に戻り、ウエストポーチの中身を確認した。
外に行くならば包帯や薬をもう少し入れておかなきゃいけない。
この前町が襲撃された時に沢山の包帯を使ってしまってから、補充することを忘れていた。
......というかここは安全過ぎていざという時の備えを忘れてしまっている。
もう少し気をつけなくちゃ。
自分にそう言い聞かせてから家を出て診療所に行き、必要そうなものを補充する。
そのあとで武器庫に行き、まだ右手に痺れが残っている私にも扱いやすい銃を選び、ホルスターへと入れた。
「何か手伝うことは?」
車の調整をするダリルに声をかける。
「平気か?」
「ん⁇」
「外に出るんだ、その手...」
「そのこと?
平気だよ...マギーだって行くのにデニスか私が付き合わない訳にもいかないでしょ?」
そう言いながら右手を出し、手を開いたり閉じたりしてみせる。
「これ、大麦のクッキーよ。道中食べて。」
そう話す私とダリルの間に入ってきたのはデニスだった。
「外で何か見つけて途中で食べるからいらない。」
冷たくそう言ったダリルにデニスは少し悲しそうな顔をみせる。
「ダリル?」
私はダリルの名前を呼び、デニスのクッキーを受け取るように目で訴えた。
「ソーダのお礼か?」
そう言ってクッキーを受け取ると、ダリルはポケットにクッキーをしまった。
「それで……ソーダのお礼って⁇」
リックの運転するRV車に乗り込んだ私達。
一番奥の座席に座っている私は、隣にいるダリルに先ほどのことについて尋ねた。
「何でもねぇ。
......ただ頼まれたんだ、個人的に。」
「デニスがソーダが好きだなんて初耳だよ。」
デニスとは結構仲がいいと思っていたのにソーダ好きとは初耳だ。
「人にあげるって言ってた。
本人に聞けよ。」
ダリルは少し面倒になったのかそう言って自分のポケットからクッキーを取り出して私の手に握らせる。
「食べないの?」
「あぁ、要らねぇ。」
ダリルはどうやら私がやきもちを焼いていると勘違いしているみたいだ。
「せっかくデニスに貰ったのに?」
私がダリルに尋ねてもダリルは何も答えない。
「せっかくデニスがくれたんだから食べなよ。」
そう言ってクッキーの袋を開けて一口サイズに割り、ダリルの口の中へと放り込んだ。
「メイおまへ‼」
どうやらクッキーを口に咥えたままではうまく喋れないみたいだ。
「美味しいでしょ?」
私はそう言ってダリルに微笑んだ。
それからしばらく進むとRV車は止まった。
「リック、なんだ?」
ダリルは運転しているリックに聞き、窓の外が見える場所へ移動する。
「事故だ転倒したばかりだろう。」
「事故⁇」
リックの言葉に反応してしまう。
「仲間だ‼」
だけど私よりも大きく反応したのはジーザスだった。
車を降りてしまった彼に続いて私たちも車を降りる。
事故車にはたくさんのウォーカーが絡まっている。
「ハメるなら覚悟しろ?」
リックはそう言い、事故車の様子を伺っているジーザスに銃向けた。