暗闇の先に
□9,見えない敵
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「ん〜...っ」
私は独房のベッドの中で伸びをした。
昨日、ダリルと食料調達に出かけて疲れていた私は長いこと眠っていたみたいで独房内はいい匂いに包まれていた。
昨日、シカが獲れたから朝食は期待できそうだ。
近くにある食堂(仮)へ行くと、キャロルが食事を配膳していた。
「おはようメイ、ダリルは朝から人気者みたいよ。」
私がチラリとダリルの方を見ると、ダリルは多くの住人に挨拶をされている。
「今朝は起きれなくてごめんね。
昨日の疲れが抜けなくて。」
そう謝りながらキャロルに配膳してもらい、ダリルの横に座った。
「おはよ。」
「あぁ。」
沢山の人に挨拶されていたけど、私にはちゃんと目を向けて返答してくれる。
...ちょっとしたことだけど、嬉しいな。
「なにニヤついてんだ?」
「うるさい。」
私はそう言って、ソースで汚れつつもジェスチャーをしているダリルの手を叩いた。
「なんだよ、女は分かんねぇな。」
そう言ってまた黙々と食べ始めるダリル。
「お前、器用に木の枝使うよな。」
「木じゃないよ、お箸だよ。」
食事の度に手が汚れるのが嫌だった私は木の枝を適当な大きさにカットし、ヤスリで削り、お箸を作った。
みんなの分も作ったのだがダリルは使わないみたいだ。
指の方が食べやすい、って。
「あっ、ダリルさん、昨日はシカをありがとうございました。
もし良かったら、握手してもらえませんか?」
そう言ったのはウッドベリーから移住してきたカールと同い年ぐらいのパトリックだった。
昨日のシカは私のおかげなのに...。
ダリルが仕留め損ないそうになったシカを私が仕留めたんだもん。
「ん?あぁ。」
そう言ってソースにまみれの指を舐め、彼に差し出したダリル。
「汚いって、指。」
「まぁいいんじゃない?彼らしくて。」
そう言って、お皿を持って隣に座ったのは配膳を終えたキャロルだった。
「けどさぁ...あっ‼ほらそうやって直ぐに服で拭くんだから‼‼」
「お前は俺のお袋かよ⁇
んなもんでチマチマ食べるより、こうやって食べた方が上手いんだよ。」
そう言って最後の鹿肉を口に入れたダリル。
そしてまた指をしゃぶり、お皿を返却コーナーに戻すと、食堂を出て行った。
「ま、いいけどね。」
私はボソリとつぶやき、キャロルと向かい合う。
「ダリルが外に行ったってことは今日も多いの⁇」
ここ2,3日、多くのウォーカーがフェンスに押し寄せていた。
「うん。
やっぱり、リックがブタを飼うって言い出したからじゃない?
ハーシェルの農場のウシだって...」
そう言って小さくため息をついたキャロル。
「けど、なんとかなってるじゃない。」
そう言ってお皿を片付け、外に向かう。
外へ出ると父さんとリック、何人かの住人たちがフェンス越しにウォーカーを始末していた。
そしてダリルにグレン、タイリース、サシャは車に荷物を運んだ。
私も保管場所に行き、クロスボウの弓と矢をチェックしてダリルのバイクに乗り込み、スーパーマーケットへと出掛けた。
車にはグレンとタイリース、サシャ、ボブとザックと呼ばれるベスの彼が乗ってる。
初めて行く場所に私達は万全の準備をした。
現場に着くと、そこは軍のテントが沢山張られていた。
「見つけた時より奴らは少なそうだが気をつけろ。
ウジャウジャ居たからな。」
そう言ってバイクを止めた。
テントの中をチラリと覗くと、中には干からびた死体があった。
...ウォーカーにはなってないみたいだ。
「ここの軍って...父さんの...」
何処かのスーパーに拠点を置き、テントを張ってたって父さんは言っていた。
それがいつの間にか何人かがウォーカーになってしまい、父さんは逃げ出したらしい。
「そうなのか?」
そう尋ねたダリル。
「わからない。」
けど、ありえなくもない。
少し歩いてスーパーの入り口に来た。
ダリルは窓を叩き、スーパーの中のウォーカーを外に引き寄せた。
「わかったぞ‼」
中の様子を伺っていると、突然そう言ったのはザックだった。
「なにが??」
「いや、ダリルが昔、何をしてたかってずっと考えてたんだ。」
尋ねたミショーンにザックは答えた。
そういえば私のところにも一度聞きに来た。
「コイツ、もう何週間も考えてんだ。
...動物の飼育委員に大工、遊園地の着ぐるみって言った事もあった。」
「いや、今回こそは当てる。」
自信満々にそう言ったザックにダリルは「言ってみろ。」と言った。
「"委員会"の一員で、追跡や動物狩りも得意。人は救うが無愛想。
答えは殺人課の警官だ。」
「ぷっ...」
私はなんとか声を上げるのは我慢したが、ミショーンは声を上げて笑っていた。
「あぁ...そうさ。
すげぇ成績も残したんだぜ⁇何個も勲章取ってな。」
「ウソだろ⁈」
そう言ったダリル。
けど、ダリルの目は笑っていた。
その目に気づいたザックは「もう暫く考えとく。」と言って、ため息をつく。
そしてそのタイミングで窓から顔を出したウォーカー。
「よし、やるか。」
そう言ってダリルはナイフを構えた。
私はみんなの背後からウォーカーが来ないよう、タイリースと二人で見張った。
タイリースから指示を受けては矢を放つ。
始末したウォーカーを運び終え、隊列を組んで中へと入った。