暗闇の先に

□5,狂った世界
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そして1時間ぐらい経って、やっとウサギを切り分けた頃、独房棟にダリルとマギーが戻って来た。


「ミルクはあった⁇」


カールは1番に2人の元に駆け寄った。


「少しだけね。
おもちゃや洋服も何枚かあったわ。」


「ネズミもな。」


そう言ってダリルは切り終えたばかりのウサギの横にネズミを置いた。


「もう無理よ‼
あなたがやって。」


どんどん増やされる獣に私は愚痴をこぼした。

動物をさばくのに慣れない私には、正直キツイものがある。


「仕方ねぇな。...あとでやってやるよ。」


ダリルはそう言いながらもさっそく赤ちゃんの為にミルクを作っていた。


「男の子用のなんだけど...無いよりはマシでしょ⁇」


マギーは取ってきたばかりの服に着替えさせ、赤ちゃんをカールに抱かせた。


「タオルなんかより居心地が良さそうだね。」


そう言ってカールは微笑んだ。


「...おいメイ、人肌ってこんぐらいか⁇」


私はミルクを作っているダリルの方を見てみると沸騰しきったお湯を使ったらしく、鍋からは湯気が立っていた。


「ねぇダリル、お湯は少し冷まさないと、ミルクの栄養分が無くなっちゃうって知らない⁇」


「...そうなのか⁇」


「かして⁇」


そして私は鍋に残ったお湯をしばらくかき混ぜ、お湯を冷ます。


「おいカール、失敗したミルク飲むか⁇」


そう言って笑いながら話すダリルに
「要らないよ」とカールは笑いながら答えていた。


しばらく冷ましたところで、もう一度ミルクを作り直し、ダリルに渡した。


「さすがメイだな‼」


そう言って私の手からスルリと哺乳瓶を取り、赤ちゃんの元へ行く。


「名前は⁇」


ダリルは赤ちゃんに向けていた目線をカールに向けて言った。


「まだ悩んでる。
みんなの名前がいいかなって。
エイミー、ジャッキー、パトリシア、ソフィア、キャロル、アンドレア、ローリ...」


カールは声を小さくして言った。


「じゃじゃ馬娘だな。」


ダリルはそう言うと、少し古いロックを口ずさんで子守唄代わりに歌いながらミルクをあげていた。


「じゃじゃ馬って...カール、ゆっくり考えたらいいのよ?」


私はカールにそう伝えた。


「あ、そうだ、お前に湿布持ってきてやったぞ。...ほら。」


そう言ってダリルはズボンのポケットから湿布の袋を取り出すと私に渡した。


「...ありがとう。」


私は椅子に座り包帯を外すと、ダリルの体温ですっかり温まった湿布を貼る。


「巻くよ。」


囚人の1人が私のすぐ横に座って包帯を受け取ろうと手を出した。
...が、今の自分にとっての一番の弱点をこんな人間に触れさせるなんてとてもじゃないけどできない。


「自分で出来るから平気よ。」


私はそう言って彼の手を下ろさせた。


「君を助けたいんだよ。」


一度下げさせたにもかかわらず、彼は私の手から包帯を奪おうとした。


「要らないって言ってるじゃない‼」


しつこい彼につい怒鳴ってしまった私の声は、コンクリートの独房内に響き渡った。


「メイ⁇...おいてめぇ...」


ダリルはそう言いながら赤ちゃんをそばにいたベスの腕に預け、こっちに来る。


「ダリル、何でもないから。
彼はただ...親切にしてくれようとしただけ。」


今にも殴りそうな勢いで胸ぐらを掴んだダリルにそう言うと、彼をもう一度細い目で見た。
そして囚人は私の言葉にウンウンと必死に頷いた。


「ね⁇...彼の好意を私が断っただけなの。」


そう言うとダリルは彼の胸ぐらから手を離し、私の手を取り強引に二階の独房の中へと連れて行かれた。


「...ちょっと...痛いから待ってよ...!」


そう言う私の声はダリルには聞こえてないみたいで、どんどんとダリルは進んでいく。

やっと止まり、座らされた場所はベッドの上だった。


「...ねぇダリル、本当に平気だから...ね?」


そう、彼を宥めようとするが彼は相当怒っているみたいだ。


「ふざけんなよ。
...勝手に触らせんじゃねぇよ。」


そんな事をダリルが言うなんて思ってもいなかった私は驚いてしまい、声が出なかった。


「えっと...ほんとに何もないの。
彼が包帯を巻くっていうから断っただけで...ほんとに。」


そこまで言うとダリルは私の手から包帯を奪い、私の足に巻き出す。


途中、様子を見に来たハーシェルは「リックの様子を見てくるよ。」と言って、また一階の方に降りていった。


「ねぇダリル...心配しないで⁇
私はあなたにしか触らせないから。」


そう言って、私は彼にキスをした。
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