暗闇の先に

□2,強くなろうとするほどに
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「...あれ?」


いつの間にか気を失ってしまったらしく、足を見てみると処置は終わっていてズボンも着替えさせられていた。

...ただ、まだ違和感は残っている。

全部のガラスは取り除けなかったんだろう。


「メイ?大丈夫か⁇」


近くにいたTドックが、目を覚ましたことに気がついてくれた。


「...えぇ。」


そうしてTドックは水を持ってくる。


「痛みで冷や汗がすごかったんだ。
飲んだ方がいい。」


「ありがとう。」


私が目を覚ましたのを知ったのか、シェーンやアンドレアも様子を見に来る。


「メイ、調子はどう?」


「絶好調よ。」


私が元気にそう言って見せるとシェーンは前方へと戻って行った。


「これ、ダリルから。たぶんCDCのよ。」


アンドレアはポケットからチューブを2本取り出す。


あぁ...さっき渡していたのはこれだったんだ。

『持出し厳禁』というシールが貼られている。


それは看護助手として働いていた私も知っている薬だった。


「ありがとう」


「今は塗ってあるけど定期的に塗った方がいいわ。」


「ねぇアンドレア...」


前に戻ろうとしたアンドレアを私は引き止めた。


「足...見たよね?
誰にも言わないで⁇
...特にキャロルとソフィアには。」


アンドレアは私に頷くと元いたテーブルに座る。

私の手当てや着替えできっと傷痕を見ているはずだ。

足や腰の痕は背中やお腹に比べてマシだけど、決して綺麗な物じゃない。


「荷物の整理⁇」


唯一私のそばにいたTドックに尋ねる。


「あぁ。
減らそうかと思って。」


「...私も減らさなきゃ。」


そう言ってキャリーバッグを自分の方へ引き寄せた。


「今はゆっくりしてた方が...「落ち着かないの。
私、じっとしていられないのよ。」


そう言うとTドックはそれ以上何も言ってこなかった。


沢山の服やタオル。
スカートやワンピースは捨てよう。
今の状況じゃ着てなんかいられない...。

化粧道具は置いておきたい。

別にいいけど…女だから...。

雑誌や本は要らない。


...そして出てきたのは携帯電話と充電器。

もしかしたらママから連絡が入っているかもしれない。

電気の使えるところに着くまで、持っておこう。


あっ‼


「ねぇTドック、ガム食べる⁇」


「え⁇あぁ、ありが...いてっ」


Tドックの素晴らしい反応に私はお腹を抱えて笑ってしまった。


そう...お義父さんが引っかかった時に良い反応をしてたから、おじさんの家にガムのおもちゃを持ってきていたんだ。


「なんだよこれ⁉」


「おもちゃよ、おもちゃ。」


「Tドック、メイ?
どうした⁇」


私達が騒いでいると、シェーンとアンドレアは様子を見に来た。


「あらシェーン、ガム食べる⁇」


「え⁇...あぁ...っ。」


そしてシェーンも引っかかり、隣にいたアンドレアは失笑し、先ほど同じ目にあったTドックは大笑いしている。


「みんな面白すぎ。
日本のおもちゃよ。」


「なんだよこれ。
...なぁ、貰ってもいいか⁇
リックやカールを引っ掛けたい。」


そう言いながらも大笑いしているシェーンは言う。


「2個あるからいいわよ。
...あ、ダリルにはバラしちゃダメよ⁇
私がやるんだから。」


そう言いながら、カールの期待が膨らみやすいソーダ味をシェーンに渡す。


「...馬鹿馬鹿しい。」


アンドレアはそう言ってテーブルへと戻り、シェーンも戻って行った。


「あぁ〜可笑しい。」


そして私はおもちゃをウエストポーチに入れて、片付けを再開させた。

ウォークマンは要らないし...

あ、でもヘッドホンのコードは何かに使えそう。

そして私はヘッドホンのコードもウエストポーチに入れた。


最後に手に取ったのは手帳。
日本を出る時にみんなで撮った写真や友達とのプリクラ。
私が赤ちゃんの頃、家族3人で撮った写真もある。

父は憎くてもそれでも実の父だ。

そして『MY BIRTHDAY』の字にそっと触れた。




ママ、私は無事に誕生日を迎えたよ。



...手帳をしまおうとした時、ある物のことを思い出した。


ポーチの中にそっとしまっておいたネックレス。


『メイ、君のお母さんに指輪を贈ったんだ。

...僕にとっては君もお母さんと同じように大事な存在なんだ。

これを持っててくれるかな?
同じ指輪だ。

勿論、君の指にはいつか君の物が着けられる。
...だから今回はネックレスとして着けていてくれ。』


そう言われ、渡された物。

指輪の裏には『precious』の文字。
この刻印は3つともに入れたって言っていた。

あえてLoveを入れなかったお義父さん。
だから余計にお義父さんからの愛がこもってると思わせる。

私はあの日、おじさんの家でシャワーを浴びる時に外してそれっきりだったんだ。

そして私はネックレスを着けた。
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