like a rainbow

□お仕事
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国内ツアーの詳細が決まると、私はヤスに地元公演のチケットを送った。

《もしよかったらヤス、ノブ、ナナちゃんで見に来てください。
招待客としてスタッフにも伝えておくので名前を言ってくれれば、裏に来れるようにしておきます。》

そうメッセージを添えて高木の家に書き留めを送る。


みんな来てくれるだろうか。



『なぁソフィー、今日行くとこって…ソフィーが住んでたところなの?』


そう聞いてきたハンターにそうだよと答える。


『ねぇスコット、ちょっと寄りたいところあるから空港から別行動でもいい⁇』


そして私は立ち上がり、ひとつ前の席に座るスコットに尋ねた。


あと30分程で着陸する飛行機。


あの街に着いたら行きたいところがあるんだ。


『いいけど1人で平気か⁇』


『大丈夫。

1時間もあれば済ませるし、リハには間に合うように行くよ。』


そう言ってポケットに入れていたのど飴を口の中に放り込んだ。

乾燥するせいか最近のどの調子が良くない。

ついでに外していたストールも巻いておこう。



飛行機の到着ゲートを出ると、沢山の人が私達を出迎えた。

サインや写真などのファンサービスに応え、シナモンズは外のワゴン車に乗り込む。


「このまま会場に行くんだよね?
すこし離れたところの駅で降ろして⁇

駅前でタクシー拾って行くから。」


私は運転手さんにそう言って、すこし先の大きな駅で車を降りてタクシーに乗り込んだ。


「市営の共同墓地までお願いします。」


運転手さんにそう伝え、窓の外に目をやる。


「まだ、積もってないんですね。」


チラホラと雪が降っているのは見えるが、積もっている様子はない。


「一昨日から降り始めたばっかでね。

それより姉ちゃん、日本語上手だね。」


「昔、この辺りに住んでたんで。」


「そうか。

この辺は変わってないでしょ。」


母のいる場所までの道中、運転手さんとひたすら喋っていた。


「すみません、少し待っててもらえますか⁇

ここまでのお金は一度払いますんで。」


私がそう言うと、運転手さんは快く快諾してくれた。

そして一度お金を払い、私は初めて母の元へ向かう。



あの日の朝から、母の元に来ることは一度もなかった。


というか来る気になれずにいた。


大人になった今、仕事も忙しくなり、次にいつここに来れるかもわからないことを考えると、自然と足が進んだ。

ヤスの義母さんの姿を見て私はここへ来たくなったんだ。


手土産や供え物や線香はないけど、ただ手を合わせにだけ来たかった。

そして5分もしないうちにタクシーへと戻る。

私が運転手さんに行き先を伝えると、「もしかして姉ちゃん、シナモンズの子かい?」と聞かれた。


バレてしまったが答えないわけにもいかず、仕方なく頷く。


「やっぱりそうか。

朝から地元のラジオでずっと流れてるよ。」


運転手さんはそう言って、ラジオの音量を上げてくれる。

ラジオから私達の曲を聴くのは少し新鮮で、つい聞き入ってしまう。


その時ラジオから聞こえてきたシナモンズの曲は私が初めて書いた曲だ。

そのあとで今日のライブのインフォメーションが流れ、最後には私の大好きな曲と紹介され、True colorsが流れた。


それから会場の地下駐車場にタクシーが停められると、私は関係者入り口から中へ入った。


『ねぇ‼今日のセットリストは?』


私は《ハンター 控え室》と書かれた扉を勢いよく開け、そう言った。


『おかえり......ここにあるけどどうしたの⁇』


興奮気味に言った私にハンターは優しく言った。


『......ここにTrue colors入れれないかな?』


『じゃ、この辺も少し変えなきゃな。』


そう言ったハンターは私に即席でできるココアを作り、シナモンを振りかけてくれた。


『ありがと。』


『ネイトも呼んでくるね。』




それからリハーサルを終えて自分の控え室に戻り、お化粧や着替えを済まして待機した。


『あと3分で時間だぞ‼』


スコットにそう言われ、最後にボトルのお水を一口飲み、そのままボトルを持って舞台へ向かった。




目の前には飲み込まれてしまいそうなほどの沢山の観客が居る。

一曲目を歌い終えると、私達は一度自己紹介をした。


「今日は来てくれてありがとう。
ここでライブが出来るのをずっと楽しみにしてたの。

今日は最高の夜にしようね‼」


私は流暢に日本語でそう言ったが後ろの2人はキョトンとしている。

そんな2人に少し振り返って、『次行くよ。』と言った。
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