Polaris

□4章
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新田さんに鋭く意見したのは真壁さんだった。


「その前に、なんで新田君だけ携帯を?」


確かに私も疑問に思っていた。


この訓練の最中、何度か携帯で電話をしている新田さんを見ている。


それに電話をしていない時も新田さんは携帯をいつもポケットに入れていた。


「許可はとってある。
訓練教官に頼み込んだんだ。

この訓練の期間中に大事な電話があるから常に携帯を持たせてくれって。」


新田さんはそう言った後で、自分だけいま来た道を引き返し、みんなで前へ進むようにと話しはじめた。


「そんなこと「その案は却下だ!今日のリーダーはお前じゃねぇ。」


本日のリーダーであるムッちゃんは大きな声で言った。


「”単独行動”なんて宇宙飛行士が最初に口にする案じゃねーぞ。

全員で前に進もう。」


ここにいる全員の中で一番宇宙飛行士らしい意見を出したムッちゃん。

確かにそうだ。

日々人だって、あの状況でさえ単独行動はしなかった。


ダミアンを助ける道を選んだんだ。


「さぁ!行くぞ新田。」


ムッちゃんはそう言って再び足を進めた。


「待ってよムッちゃん。

大事な電話が来るって聞いてたでしょ?
新田さんが訓練教官に頼み込むぐらい大事な電話だって言うなら私は「大丈夫よ、美月さん。
行きましょう。」


そう言ってアマンティは私の肩を軽く叩き、ムッちゃんについて行く。


こんなに仲間に厳しいムッちゃんは初めてだ。

たまに厳しいことを言うことはあるけど、ムッちゃんは私達が納得できないようなことは言わない。

なのに今回だけは分からない。


「待ってくれ南波!」


どんどん先を進んでしまうムッちゃんに食い下がる新田さん。

きっとそれだけ大事な電話なんだろう。


「今晩その電話がかかってくるんだよな?新田の携帯に。

だったら着信でチカチカ点滅するはずだろ、夜になってからの方が見つけやすい。

キャンプ地に荷物を置いて夜に2人で行く。」


しつこい新田さんに折れたムッちゃんはリーダーらしく堂々とそう言った。


......心配してたようなことはなかった。

よかった、さすがムッちゃんだ。


✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩


その日の夜、無事に携帯を見つけて帰ってきたムッちゃんと新田さん。

私たちE班はみんな揃ってキャンプファイアーを囲み、いて座流星群の天文ショーを見た。


「昼間はありがとな。」


「え?」


たまたま私の隣に座っていた新田さんは呟いた。


「俺と戻ろうとしてくれたろ?」


「...だって新田さん、本気そうな顔してたから。」


私がそう言うと、新田さんは突然笑いはじめた。


「え?なんで笑うの⁇」


私は新田さんに聞く。


「いや、天乃さんが南波と同じこと言うから。」


そう言われ、私はムッちゃんの方に目線を向ける。

ムッちゃんは相変わらず空を見上げていた。


「実は俺にも居るんだよ、弟が。

弟からの電話を待ってたんだ。」


私がムッちゃんを見ていることに気がついた新田さんは静かにそう話しはじめた。


「でもこの前居ないって...」


そう。

前にアマンティが新田さんの家族について話した時、新田さんは弟は居ないって言っていた。


「比べられるのが嫌だったんだ。
日々人さんと。」


「比べる?」


「あぁ。
大学を退学して、バイトも辞めて、もう2年も何にもしてねぇ...25にもなってな。

そんなどうしようもねぇ弟と、日本人初の月面着陸を果たした南波の弟と「比べるって......弟さんには弟さんの良さがあるでしょ⁇

それを一番知ってるはずの新田さんがそんなこと言ってどうするの?」


私の言葉を聞き、流星群を見上げていたはずの新田さんは下を向いた。


「ごめんなさい、つい......。
でも誰かと比べることじゃないと思う。

私だって、一度は宇宙飛行士になることを諦めてたけど「日々人さんだろ?背中押した人って。」


三次試験の時に私が宇宙飛行士を目指す理由を話したことを覚えていてくれたんだろう。


「そう。私は日々人に背中を押された。

弟さんの背中は新田さんが推してあげればいいんじゃないですか⁇」


「.........俺はカズヤの背中をぶっ叩いてたよ。」


新田さんはそう呟いた。


「弟さんって......カズヤって言うんですか?」


聞き覚えのある名前に、私はつい聞き直してしまった。


「あぁ。それがどうかした?」
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