Polaris

□2章
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食べ終えた食器を運んでいると、散歩用のリードを咥えたアポちゃんがムッちゃんの元へと走ってきた。


「ちょっと待てよアポ。

まだスープ残ってるんだけど。」


そしてムッちゃんは仕方なく一気にスープを飲み干すと、アポに連れて行かれてしまった。


「あれじゃどっちが犬だかわかんねぇよな。」


そう呟いて食器を運んできた日々人。


「で、美月。

...やっぱダメなの⁇」


そう言いながら甘えた猫のように後ろからハグをしてきた日々人。


「私だって...そうしたいけど......。」


「ならいいじゃん。

前にも言っただろ?
したいようにするのが一番良いって。」


私の耳元でそう言った日々人。

私の顔は昨日の夜よりさらに赤くなってしまった。


「日々人のバカ。」


どうやら私の負けみたいだ。


私は蛇口を閉めて日々人に向きあうと、日々人は私の唇を奪ってきた。

呼吸をする隙も与えないほどに求めてくる日々人。


苦しいと日々人に訴えてみるが、日々人はやめてくれそうにない。

酸欠で倒れそうになる直前、日々人は私を解放してくれた。


「やべぇな。

俺、これから訓練行かなきゃいけねぇのに。」


「日々人のせいだからね。」


「美月が可愛いからだろ⁇」


そして、私の口の中にはブラックコーヒーの苦い香りが広がっている。


「美月、ギリギリまでここに居ろよ。」


今度は真面目な表情でそう言った日々人。


「......わかったよ。

でも、ムッちゃんには日々人から言ってよね?」


「りょーかい。」


そう言うと日々人は鼻歌を歌いながら出掛ける支度を始めた。


そして私が丁度片付けを終えた頃、アポちゃんとムッちゃんは部屋に戻ってきた。


「あ、おかえりムッちゃん。

あのさ〜、俺、美月と付き合うことになったから。」


思ったよりもさらりと伝えた日々人。


「なっ...日々人お前なぁ〜...」


ムッちゃんは日々人のあまりにも突然の発言に言葉をなくしていた。


「じゃあ俺そろそろ行かなきゃいけないから。

それと美月、俺、電話番号もメールも変えてないから‼」


そう言って日々人は自転車に乗ってシャーっと行ってしまった。

あの時、されるがままに登録された日々人の連絡先はまだちゃんと登録されてあるかどうかもわからない。


それにこんな風にムッちゃんと二人っきりで置いてかれるなら私から言ってもよかったような気がする。


「美月さん、本当にいいの?

あんな奴なんかで。」


微妙な空気を打ち消したのはムッちゃんだ。


「...ほんと、自分でも不思議だよ。」


私はそう返事をした。


✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩


その後、ムッちゃんにホテルまで送ってもらった私。


部屋に戻ってすぐ、お掃除不要の札を廊下側のドアノブにさげ、シャワーを浴びた。


あーぁ。


なんだかとんでもないことになっちゃったなぁ... 。


私はベッドに寝転びながらそんなことを考えた。

そしてその日、私は地元の本屋さんへと行き、宇宙に関係する本を集めた。


日本ではなかなか扱ってない本なんかも、ここでは揃っている。

自分用に一冊と、同じ分野について研究している父の分との2冊を購入した。

途中、お昼ご飯にと寄ったカフェで待ちきれずに本を読む。


そして気がつけば夕方になっていて、お店の外に出るともう一番星が見えている。


私はいつも首元から下げている星時計から北極星を見てみた。

4時すぎ.....か。


ここから少し散歩しながら帰って、軽く荷物を片付けておくか。

......あの日々人の様子だと、チェックアウトした後も2日ほどはヒューストンに居ることになるだろう。

買いたい本は揃ったし、ロスにはまたいつか行けばいい。

そんなことを考えつつうっすらと見え始めている星を見上げながら、ホテルまでの1キロ半の道を歩いた。


ホテルのロビーでお水を買ってから部屋に戻ろうとすると、売店に宇宙飛行士のキーホルダーが売ってあるのが目に入る。

......日々人はもうすぐ月に行くんだよな。


私も......月に行けるのかなぁ?


✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩


♪〜♪〜♪〜


部屋で買ってきた夕食を食べていると、携帯に着信がかかってきた。


『もしもし美月?

なんで居ねぇ〜の⁇』


「なんでって...私はホテル取ってるからだよ。」


相手はもちろん、日々人だった。
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