Polaris

□3章
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「どうもありがとうございました。」


「おおきに〜。」


数日後、配送日を家の入居日に合わせていたベッドやソファー、テーブル、イス、キャビネット、テレビやエアコン、掃除機といった家具、家電が届けられた。


「いやぁ〜無事届いて良かったなぁ。」


部屋の中に戻って来た小町さんは、たった今配置されたばかりのソファーに座りながら言った。


まだ室内は少し寂しいが、これでしばらくは生活できるだろう。


そしてうちに来てくれた小町さんにやっとお茶が出せる環境になった。


お湯を沸騰させ、この前買った紅茶を開けてみる。

茶葉を入れたテーポットの中にお湯を注ぐと、ふわりといい香りがした。

お茶菓子は無いけれど、まぁ仕方がない。


「小町さん、お茶を飲みませんか?

この前買った紅茶を淹れてみたんですけど。」


「わざわざいいねんで、美月ちゃん。」


小町さんはそう言いながらもダイニングテーブルへとやって来た。


「そう言いながらも小町さん、ガッツリお砂糖入れてるじゃないですか。」


そう言った私に小町さんは笑った。


「関西人はみ〜んなこんなもんや。

あ、マシュマロ出そか?」


小町さんは本当にマシュマロが好きらしい。


なんだか頼りになるなぁ。

JAXAのオカンって言われてるだけあってか、本当にお母さんみたいだ。




それから車で食料品の買い出しに連れて言ってくれた小町さんは最後、家の前で降ろしてくれた。


車、買わないとなぁ〜...。

そう思いながら冷蔵庫に買って来たばかりのもの達を片付けた。


アメリカらしいボトルに入った牛肉や量の多いお肉にチーズ。


ヨーグルトに至っては1kgも入っている。


野菜もサイズが大きく、沢山買っていなくてもいつの間にか冷蔵庫はパンパンになっている。


もうひと頑張りして、部屋を片付けよう。



✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩.。.:*・゚*:.。.✩



そして訓練開始の前日、アスキャン歓迎パーティとやらの前に、小町さんの勧めでみんなでNASAの見学に行った。


前に来た時と同じツアーを周る。


もう何度か来ている私にはなんてことないツアーだったけど、前回とは一つだけ違うことがある。


「モニターに映ってんのって今の月面だよね、ジェニファーさん。」


真壁さんが案内役のジェニファーさんに尋ねる。


そう。


このモニターで24時間月の様子が見れるのだ。


「なぁジェニファー、日々人の姿は見れないの?



ムッちゃんは言う。


「ヒビトはいま就寝中よ、起きるのは4時間後。

心配しなくてもヒビトは元気いっぱいよ。

あんな事故の後なのに"俺にもEVAやらせてくれ〜"ってアピールしまくりで。

でもドクターのOKが出てないし、彼らはたぶん今回のミッションでもうEVAをする事はないでしょうね。」


はっきりとそう言ったジェニファー。

そうだ。

彼女はあの時も、きっとここで日々人の様子を見ていたのだろう。

ダミアンやこの壁の向こう側にいる人たちの次に...JAXAより、あの時のことを知っているんだろう。


JAXAで日々人と話した時はあんなに元気そうだったのに...きっとあれは日々人の強がりだったんだ。

きっと日々人はあの時にはもう、EVAをさせてくれない管制にイライラしていたはずだ。


「大丈夫よ、EVA以外にも基地内でやる事はたくさんあるんだから。」


そう言ったジェニファーだったけど、日々人が少し心配になる。

あと20日弱も日々人にとって歯痒い期間が続く。


そう考えるとますます心配になってきた。


「美月ちゃんもそんな顔したらあかん!
もっと笑顔でおらな‼」


そう言いながらバシンと私の背中を叩いた小町さん。


「あ、はい。」


私はそう言って笑顔を作った。


ほんと小町さんてば、よく見てるんだから。


不安になってしまった私だけど、きっと日々人は何もなかったフリをしたかったんだ。


私やムッちゃんに心配かけないように、いつも通りに振る舞ったんだろう。


そしてその後、夕食兼歓迎パーティーに呼ばれた私達。

バトラー室長が日々人の功績について話したところで歓迎会はスタートした。


何人ものアスキャン同期生と挨拶を交わす。


「わぁ〜すごい‼なんでわかるの〜〜‼」


トイレに行きたくてその場から離れた私だったが、日本人アスキャン達の元に戻ると、何やらせりかちゃんと絵名ちゃん達が騒いでいた。
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