暗闇の先に
□16,成長
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***ダリルside***
バイクのハンドルを握り、トロトロと西に向かう道中でふと、1週間程前にグレンとリックが話してたことを思い出す。
「実はマギーが身籠もったんだ。」
ポーチで過ごしていると、家の中からグレンの声が聞こえてきた。
家のリビングにいるのはグレンとリック。
リックはおめでとうと言ってグレンにハグをしていた。
もちろん俺は子供は嫌いじゃない。
ジュディスだって可愛がってるし、カールやソフィアともうまくやっていた。
だが自分の子供となると躊躇してしまう。
母親は自分の寝たばこで火事を起こして勝手に死に、父親は俺や兄貴に暴力を振るった。
そんな環境で育った俺は良い父親になんてなれるはずがない。
そして何より......ローリのようにメイを失うかもしれないと思うと恐怖心でいっぱいになるんだ。
俺にとってメイは凄く大切で...その時が来たなら自分の命と引き換えにしてでもメイを救う覚悟だってある。
グレンとリックが話してたあの夜俺は、記憶を失くしたメイを受け入れ、また一からやり直すつもりだった。
そんな決心とは裏腹に中々家に帰ってこないメイに痺れを切らした俺は、あいつの分の食事を持って診療所に行った。
だけどそこにはいつもと様子の違うメイが居て。
記憶を失くしたあいつに引かれた境界線の内側に入ることが出来なかった俺はピートの事さえ気付けなかった。
そんな風に考え込んでいると、突然あたりに大きな音が響きはじめた。
そのせいでウォーカーの半数近くが隊列を崩していく。
エンジンを吹かして音を立てると一瞬は紛れさせれるものの、すぐに逸れてしまう。
しかもあっちは町の方角だ。
さらには銃声まで聞こえてくる。
町で何かあったに違いない。
自分が今ここにいることにイライラしつつもさらに西へと進む。
そして目的地まであと3分1という頃。
無線機から声が聞こえた。
「リック、メイだけど...聞こえる?」
先程から連絡がつかないグレンではなく、メイの声だった。
グレンには悪いがメイの声が聞けてホッとする。
町に侵入者が来て住民の何人かが死んだらしい。
そしてその時俺はふと思った。
つまらない考えなんか捨てて、さっさとメイと結婚するべきだって。
結婚したから子供持たなきゃいけないわけじゃない。
結婚したから父親になるわけじゃないんだ。
こんなクソみたいな世の中だからこそ、常にメイの一番でありたい。
......それだけだ。
そしてリックとの話しを終えたメイに俺は話しかけた。
「メイ...帰ったら、少し話がある。」
「わかった...ダリル、ちゃんと無事に戻って来てね。」
少し時間をかけて無線に応えたメイは心配しているのかそう言った。
「任せとけ。
お前こそ、外に出るなよ⁇」
「そんな余裕ない。
手当して回るので手一杯だよ。」
そう言ったメイに安心し、ホッとしているとすぐ横を走る車に乗っていたエイブラハムが窓を開けた。
「みんなが聞いてる無線で堂々とイチャつくなよ‼」
そう言って野次を入れたエイブラハム。
「うるせぇほっとけ‼」
俺はエイブラハムにそう言って、より一層エンジンを吹かした。