Prisoner of Azkaban
□2,不死鳥の涙
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パーシーが前の方へと行ってしばらくすると、ざわざわと頭が動き、後列の生徒は爪先立ちになった。
「どうしたの?」
いま来たばかりのジニーが尋ねる。
だが、もうすでにアルバスはそこに立っていて、肖像画のほうにさっと歩いていった。
生徒が押し合いへし合いして道を空けた。
どうやら「太った婦人」が肖像画から消え去り、絵はめった切りにされて、キャンバスの切れ端が床に散らばっている。
絵のかなりの部分が完全に切り取られている。
アルバスは無残な姿の肖像画をひと目見るなり、暗い深刻な目で振り返った。
ミネルバ、セブルス、リーマスも騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた。
「『婦人』を探さなければならん。
マクゴナガル先生、すぐにフィルチさんのところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」
アルバスがそう指示を出すと、ピーブスの声が聞こえた。
「見つかったらお慰み!」
みんなの頭上をひょこひょこ漂いながら、大惨事や心配事がうれしくてたまらない様子だった。
「ピーブズ、どういうことかね?」
アルバスは静かに聞く。
「校長閣下、恥ずかしかったのですよ。
見られたくなかったのですよ。
あの女はズタズタでした。
5階の風景画の中を走ってゆくのを見ました。
木にぶつからないようにしながら走ってゆきました。
ひどく泣き叫びながらね。」
「『婦人』は誰がやったか話したかね?」
「ええ、たしかに。校長閣下。
そいつは『婦人』が入れてやらないんでひどく怒っていましたねえ。
あいつは癇癪持ちだねえ。あのシリウス・ブラックは」
その言葉を聞き、私たちは全員顔を見合わせた。
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その日の夜、生徒たちは全員、大広間で寝袋に包まって眠ることとなった。
先生たち全員が城中を捜索し、監督生が大広間の入り口に。
そして首席の2人が大広間を指揮している。
消灯までもう5分を迫る中、私たちは寝袋に入り、頬杖をつきながら話した。
「ねえ、ブラックはまだ城の中だと思う?」
ハーマイオニーは心配そうに囁いた。
「ダンブルドアは明らかにそう思ってるみたいだな」
「ブラックが今夜を選んでやってきたのはラッキーだったと思うわ。
だって今夜だけはみんな寮塔にいなかったんですもの……」
「きっと、逃亡中で時間の感覚がなくなったんだと思うな。」
ロンが言った。
「今日がハロウィーンだって気づかなかったんだよ。
じゃなきゃこの広間を襲撃してたぜ」
「灯りを消すぞ!」
ざわざわ声がこだまする中、イキイキとしたパーシーが怒鳴った。
「全員寝袋に入って、おしゃべりはやめ!」
蝋燭の灯がいっせいに消え、残された明りは、ふわふわ漂いながら監督生たちと深刻な話をしている銀色のゴーストと、城の外の空と同じように星がまたたく魔法の天井の光だけだった。
いつもと違う環境のせいか、ストレスのせいか、なかなか寝付けないでいると、一時間ごとに先生が一人ずつ大広間に入ってきて、何事もないかどうかを確かめた。
だがそれも、3回ほど繰り返したとこで私はやっと眠りについた。
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なんだか妙な夢を見た。
私は何故か自分の家にいて。
何もかもが散乱し、誕生日の飾り付けがされた家。
あの日、私がホグワーツにやって来た日の家を、私はひたすら彷徨っていた。
食べ物や割れたガラスなんかは片付けられているものの、ユキのおもちゃやベッドなんかが転がっている。
まさにあの日のまま。
だがふと気がつくと、今度はホグワーツにいた。
ハリーやロン、ハーマイオニー、セブルスやリーマス、見知った顔は誰一人いなくて。
そこが本当にホグワーツなのかどうかもわからない。
だけど私はそこで、ただ生徒達がおしゃべりしたり、教科書を読んでいたり、悪戯を仕掛けられた生徒が走り回り、その生徒を注意する生徒が居る…。
すごく平和な、至って普通のホグワーツの姿だった。
まぶたの裏側に映る光が眩しくて目が覚めると、大広間の天井はすっかり明るくなっていた。
あたりを見渡すと、チラホラと空っぽの寝袋があり、扉は開けられていた。
私も寝袋から抜け出し、両腕を上げ、伸びをする。
硬い床で寝たせいか、背中が少し痛い。
まだ眠っているハリーやロン、ハーマイオニーを起こさないようにそーっと扉の方へ行くと、どこからかフォークスが飛んできた。