Prisoner of Azkaban

□2,不死鳥の涙
1ページ/10ページ



パーシーが前の方へと行ってしばらくすると、ざわざわと頭が動き、後列の生徒は爪先立ちになった。


「どうしたの?」


いま来たばかりのジニーが尋ねる。


だが、もうすでにアルバスはそこに立っていて、肖像画のほうにさっと歩いていった。

生徒が押し合いへし合いして道を空けた。


どうやら「太った婦人」が肖像画から消え去り、絵はめった切りにされて、キャンバスの切れ端が床に散らばっている。


絵のかなりの部分が完全に切り取られている。

アルバスは無残な姿の肖像画をひと目見るなり、暗い深刻な目で振り返った。


ミネルバ、セブルス、リーマスも騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた。


「『婦人』を探さなければならん。

マクゴナガル先生、すぐにフィルチさんのところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」


アルバスがそう指示を出すと、ピーブスの声が聞こえた。


「見つかったらお慰み!」


みんなの頭上をひょこひょこ漂いながら、大惨事や心配事がうれしくてたまらない様子だった。


「ピーブズ、どういうことかね?」


アルバスは静かに聞く。


「校長閣下、恥ずかしかったのですよ。
見られたくなかったのですよ。

あの女はズタズタでした。
5階の風景画の中を走ってゆくのを見ました。
木にぶつからないようにしながら走ってゆきました。
ひどく泣き叫びながらね。」


「『婦人』は誰がやったか話したかね?」


「ええ、たしかに。校長閣下。

そいつは『婦人』が入れてやらないんでひどく怒っていましたねえ。

あいつは癇癪持ちだねえ。あのシリウス・ブラックは」


その言葉を聞き、私たちは全員顔を見合わせた。


†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:


その日の夜、生徒たちは全員、大広間で寝袋に包まって眠ることとなった。

先生たち全員が城中を捜索し、監督生が大広間の入り口に。

そして首席の2人が大広間を指揮している。


消灯までもう5分を迫る中、私たちは寝袋に入り、頬杖をつきながら話した。


「ねえ、ブラックはまだ城の中だと思う?」


ハーマイオニーは心配そうに囁いた。


「ダンブルドアは明らかにそう思ってるみたいだな」


「ブラックが今夜を選んでやってきたのはラッキーだったと思うわ。

だって今夜だけはみんな寮塔にいなかったんですもの……」


「きっと、逃亡中で時間の感覚がなくなったんだと思うな。」


ロンが言った。


「今日がハロウィーンだって気づかなかったんだよ。
じゃなきゃこの広間を襲撃してたぜ」



「灯りを消すぞ!」


ざわざわ声がこだまする中、イキイキとしたパーシーが怒鳴った。


「全員寝袋に入って、おしゃべりはやめ!」


蝋燭の灯がいっせいに消え、残された明りは、ふわふわ漂いながら監督生たちと深刻な話をしている銀色のゴーストと、城の外の空と同じように星がまたたく魔法の天井の光だけだった。


いつもと違う環境のせいか、ストレスのせいか、なかなか寝付けないでいると、一時間ごとに先生が一人ずつ大広間に入ってきて、何事もないかどうかを確かめた。



だがそれも、3回ほど繰り返したとこで私はやっと眠りについた。


†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:†:.。.:゚:.。.:


なんだか妙な夢を見た。


私は何故か自分の家にいて。

何もかもが散乱し、誕生日の飾り付けがされた家。


あの日、私がホグワーツにやって来た日の家を、私はひたすら彷徨っていた。


食べ物や割れたガラスなんかは片付けられているものの、ユキのおもちゃやベッドなんかが転がっている。

まさにあの日のまま。



だがふと気がつくと、今度はホグワーツにいた。


ハリーやロン、ハーマイオニー、セブルスやリーマス、見知った顔は誰一人いなくて。

そこが本当にホグワーツなのかどうかもわからない。


だけど私はそこで、ただ生徒達がおしゃべりしたり、教科書を読んでいたり、悪戯を仕掛けられた生徒が走り回り、その生徒を注意する生徒が居る…。


すごく平和な、至って普通のホグワーツの姿だった。



まぶたの裏側に映る光が眩しくて目が覚めると、大広間の天井はすっかり明るくなっていた。


あたりを見渡すと、チラホラと空っぽの寝袋があり、扉は開けられていた。

私も寝袋から抜け出し、両腕を上げ、伸びをする。


硬い床で寝たせいか、背中が少し痛い。


まだ眠っているハリーやロン、ハーマイオニーを起こさないようにそーっと扉の方へ行くと、どこからかフォークスが飛んできた。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ