BL小説集

□啜泣
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 それは悲劇なのか喜劇なのか、何者にも判断しがたい。



 照り付ける太陽の下、ハンケチーフで額の汗を拭う青年は、革製の旅行鞄を持ち歩いていた。

 ワイシャツの胸元を緩め、熱さを紛らわすように扇ぐ。

 みぃんみぃん、みっちょわみっちょわと騒がしい蝉どもの音は、だが青年にとっては懐かしい音色だった。


 青年こと郁阪(いくさか)左京(さきょう)は大学の研究により、幾年も英国にて勉学をしていた。

 左京自身は平民の生まれだが、懇意にしていた友人の後押しや恩師のお陰で、憧れの海外へ行くことができたのだ。

 勿論努力とて必要だが、この時代、平凡な学生が海外へ行くとなると相応の後ろ盾が要というものだった。

 その後ろ盾となってくれた友人に会いに、左京は歩を急ぐ。


 友人は先祖代々この辺りを統治し管理する、所謂地主である。

 身分は違えど、気に入られ幼なじみとなった左京は、様々に助けられた。

 久方ぶりに会う彼は元気にしているだろうか?
 研究に熱心になるあまり、手紙もロクに出せずにいたのだ。


 左京は大きな屋敷の前に着く。
 連絡はしてあるので構わず戸を開いた。

「お邪魔します。郁阪です」
 
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