BL小説集

□肌肉玉雪
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「きゃー、かーわいー」

 夕星は拷問にあっている気分だった。精神的にはもう限界だった。
 
 いま彼は、女たちに囲まれて強制三つ編みの刑に処されている。赤い帯織を編み込んで、二本の三つ編みにされてしまった。
 非力な女子供に手を挙げることなどできず、夕星は膝を抱えてひたすら耐えている。

「やだ〜可愛いじゃないの〜」

「編みがいがあるわねえ」

 どんよりとしている夕星の気などまるっきり無視して、女たちはきゃっきゃと盛り上がる。

「いつまで俺を引き留める気だ」

 ついに化粧道具まで出してきた。夕星はもう我慢ならぬと立ち上がる。
 部屋を出ようとする夕星を、女たちはなんとか止めようと、大勢で彼の腕をとる。

「ちょちょっと待って、おねがいもうちょっと待って」

 ひっついてくる女たちをものともせず、無理矢理引きずる。子どもたちは脳天気にすごーいと笑うが、他の大人は焦っていた。




 ドルネーク家のいつもの陽気な笑顔はどこへやら、ぴりぴりとした空気が張りつめる。
 ギドは渡された木片を眺めてはいたが、わからんと戻した。

「こういうことは、森の魔女に伺うべきだと思うぜ」

「お前がその魔女を我が家に迎えたと聞いたからだ」

 ギドはもう嫌になってきた。眼前にいるのは、ギドの同年代で、彼の次に強い戦士バーンだ。
 殲滅の神と契約したギドを、もっとも激しく非難したのがこの男だった。

 ギドは個人での戦績は大変に高いが、比類ない強さと命を省みない戦い方は誰にも真似できない。かたやバーンは武術での強さこそギドには劣るが、戦略と指示の素早さはポチテカでも指折りと尊敬を集める。

 ドルネークでも高位の戦士二人の決裂は、家全体の決裂に繋がりかけた。それを当主と大祖母がなんとかとりなした結果、ギドが家に残ることを不服としたバーンは長く行商に出ることになった。
 
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