BL小説集
□肌肉玉雪
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轟々と吹雪く中、ようやく耳障りな悲鳴が止んだ。
雪面は赤黒い血で染まり、足跡も轍も視認できぬほど。だがそんな穢れも、積雪にかき消されるだろう。彼女がそれを望んでいるのだから。
横転した馬車から、布に包まれたものが出てきた。布を捲くって確認すると、ただの老木の丸太だった。
これを大事に大事に運んできた連中は、みな白い法衣を着ている。中には時代遅れな甲冑姿をした者もいたが、北方の暗殺者の敵ではなかった。
「私に気づかれず、通り抜けられると思ったのか?山道はイツテラコリウキの領域というに」
女は従者から食刀を受取り、死体の眼を抉り出す。そばにいる鷺に食わせてやる。
「死体は墓地に……ああ、今はいないのだった。そのうち教会から返却要請がくるだろう、川にでも沈めておけ」
死体が引き上げられていくを見送ることもなく、女は丸太を踏み砕いた。この荷はこの国の関所を通るまでの偽造だろう。国境付近や僻地ならば見過ごしてやるが、自分の城近くをこそこそ行くものは狩りたくもなる。ましてやそれが、教会ならば尚更のこと。
だがその行為が間違いだった。傲慢で恐れを失った女は、この過ちをもって自らの運命を決定づけた。