BL小説集
□おまけ
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「おらぁッ!」
「ぐふぅっ」
真正面から顔に拳を受け、ギドは倒れた。
いつもの事と、周囲は全く気にしないが、暴力事と無縁なエマヌエルはとかく驚いた。
「だ、大丈夫、ですか……?」
「あ、へーきへーき。結構手加減してる」
「そ、うですか……あの、慣れて、らっしゃるんですね……」
エマヌエルは、夕星の体の調整のためにあと数日滞在するようだ。
気弱な青年だが、礼儀正しい姿は好感が持てる。
「でも夕星さん、からかうと面白いじゃん?ついやっちゃうんだよな」
「……痛いのが、お好き、なんですか……?」
「違うっての。つうか人間にするって聞いたけど、本当にできたのか?」
夕星の膂力は未だ強靭で、ポチテカの男と並んで荷運びをしてしまえるほど。
禍令曰く、夕星が本気を出すとは重傷を負う事だ。ギドはやはり心配だった。
「ええと、急に戻すと危険ですので……。数十年単位で普通の人と同じ程度になるかと思います」
「マジで」
「とはいえ、きちんと寝食をとらないと……ご様子はどうでしょうか」
「ああ、その辺は大丈夫だぜ。すっげえ複雑な顔で食ってるけど」
それを聞いてエマヌエルはほっとした。万が一があると思うと、気が気でない。
「……まあ、強くない夕星さんじゃ張り合いねーしな!」
何事も前向きに捉えるギドを、エマヌエルは感嘆し、羨ましいと思った。うじうじ考えず、できる事から取り組む大人の姿は、迷える青年の憧れとなった。
「いいな……」
(エマヌエル、痛いのが好きなんか……?)