BL小説集
□おまけ
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ルートヴィヒは悩んでいた。そう主に別荘に置いている青年のことだ。
不自由の無いよう、食糧や本は十分に送っていた。服飾はまだ計測をしていないため、もう少しかかるが。
自室の書斎で書類に署名をしていると、ふいに暑くなってきた。またか、と思う間もなく、赤き竜は卓に着地。鋭い爪をルートヴィヒに向けた。
盾を出し、防ぐ。もちろん普通の盾では溶けてしまう。現代の技術では製造不可能な耐熱鋼である。
ベリアルは被膜の翼を広げる。この羽は飛行するためではなく、放熱の役割があるらしい。
上昇気流が発生し、せっかく整理した書類が舞い上がる。
紙が発火する前に、偃月刀で羽を切り裂く。ようやくベリアルは小鳥の姿をとって大人しくなった。
ここ毎日、繰り返している応戦だ。炎神はわりと本気で、王子を殺そうとしている。
アザゼルに書類を拾わせ、ルートヴィヒは事の次第を聞いた。神が見えぬ人の前で襲われては、頭の可笑しい王子と認識されてしまう。
「ベリアル、そんなに私が憎いか」
ベリオールを滅した責任は確かにある。恨まれても仕様がないが、その割に炎神は大人しい。
『このベリアルは消えいく炎だ。民が死滅することも、世界の流れならばそれで良い。
攻撃意思は、魔王の深層意識からくるものだ。魔王はお前を殺したいと思っている』
「……まあ、そうだろうな」
『断っておくが、ベリオール全滅とはあまり関係がない』
「なんだと?」
民や叔母の死でなければ、なんだというのだろう。思い当たる節がない。しかし本気でベリオールの仇をと思うならば、エンディミオが狙われるはずだ。
しきりに首を傾げていると、ベリアルは助言した。
『お前が思うより、魔王は嫉妬深く、情熱的な性質だ。その炎は消えることはない』
まだまだ、お互いの理解が足りないということだろう。
火竜はエマヌエルの不安定な意識が壊れないよう、悲しみや怒りを炎という形で発散している。
ベリアルの行動や言葉は、エマヌエルの本音そのものなのだ。
『今日も来れぬのか』
「ああ。謝っておいてくれ」
『……それもまた、虚無的でよろしい』
猩々紅冠鳥は飛び去った。ため息を吐く王子に、アザゼルが書類を渡しながら語る。
『魔王もお可哀想に……自分の感情に振り回されているのです』
「私とて、このまま放っておくわけではない」
『わたくしにはよく解ります。あの苦しい気持ち……』
神が人の感情を語るとは、アザゼルは奇妙な堕神である。
「解るならば言ってみろ」
『申し訳ありません、魔王のことを語るは憚(はばか)られます。
ですが、通じ合って尚解らぬ時はお教えします。それは今ではありません』