BL小説集

□./Ruf
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死の何が恐ろしいのか。我らは血肉に塗れて生まれるというのに


 止まない雪は、どんな痕跡も消してくれる。

「や、やめろ……やめてくれ」

「はぁあ?馬鹿言うない」

 許しを請うた喉は、一片の慈悲なくかっさばれた。

「か、ささ、ぎ伯、爵め……」

「俺は伯爵じゃあない。ただの猟師だ」

 殺人者は短剣の血を払い、死体を抱えて歩む。その姿は、降雪が掻き消した。






 アルヴァ国王妃、フリードリヒは猛烈に悩んでいた。

 “忌まれし森"の事件以来、彼の内にいた神は去った。

 呪いは解けた。それ自体は喜ばしいことなのだが、新たな問題が浮上した。

「王妃様は、十分に功績を残してらっしゃいます。気に止める者はおりません」

 事情を相談された宰相ダイケンが、安心させるように述べる。

「教会には、宗主のみに伝達いたします」

「うー……でもあんなに祭り上げておいて、もう預言できないなんて」

 そう、フリードリヒには、預言の力が失われていた。

 産後から一年間は、療養という事で謁見は無かったが、もうごまかせない。

 フリードリヒは神憑きという特殊性で、妃になれたのだ。預言は強力な外交手段でもあり、それがないとあっては、王妃への反発も出るだろう。

「あ、わたくしが直接、宗主様に……」

 教会最高指導者に会ったことはないが、散々教会には世話になっている。
 フリードリヒが直接交渉するならばわかってくれるはずだ。

 と思いきや、ダイケンは慌てて止める。

「それだけは絶対にお止めください!陛下のお怒りを買いますし、私も許可を出せません」

 温厚なダイケンが、いつにない勢いで制止する。
 理由はわからないが、フリードリヒは頷いた。
 
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