BL小説集
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神憑きではなくなってから数日。
フリードリヒは術後の経過を見るため、いまだ寝台の住人だった。
腹を見ると縫い付けた痕があり、ぞっとしたものだ。
しかしあの医師は、切開手術法そのものを生み出した人物らしく、医療の世界では聖人扱いだと、看護師が言った。
そして散々世話になった医師本人は、出産までの契約だったようで、別の現場へ去ったとか。
しかし、フリードリヒは体の痛みよりも深刻な悩みを抱えていた。
「寝れ〜ん」
昼寝しすぎて夜眠れないという、当たり前の事態に戸惑っていた。
眠れば一日が終わった日常とは違う。
今は退屈を紛らわす方法を考えねばなるまい。
侍女が明かりを残してはくれたが、本を読めるほど文字を勉強しておらず、動けるほどに回復もしていない。
点滴の管が許す範囲で、寝台の上を転がっていると、かちかちと鳴き声。鵲だ。
そういえば、とフリードリヒは考えた。
境界でヘルガと対峙した時に見た鵲は何だったのか。神には違いないのだろうが――
鳴き声は、寝台近くの鏡台の方からだった。
鏡の側で、鵲が鳴いている。
いや待て、何かがおかしいと、フリードリヒはゆっくり起き上がる。
鵲は飛んでいった。それで違和感の正体が判明した。
鵲は鏡の向こうにいた。実物ではなかった。