BL小説集
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失われた意識の中、フリードリヒは最後の夢を見た。
結局、普通に分娩は不可能らしく、医師はいい笑顔で切開しますと宣言した。
いやいや心の準備が、という間もなく、麻酔をかけられた。
久しく、フリードリヒは境界にいた。
誰もいないが、ケツァルコアトルが出産に耐えうるよう、フリードリヒの体を守っていたのは理解していた。
「ケツァルコアトル様」
呼びかければ、背後から白い腕と翠の蛇が、フリードリヒを抱きしめた。
「……?」
「よく頑張りましたね。わたしの使命を達成をしてくださり、感謝します。
これで、世界は次の段階へ進みます」
様子がおかしい。ケツァルコアトルは真面目であり、こういった悪戯めいた接触はしない。
「契約は終了。お別れです」
無理矢理振り向き、フリードリヒは愕然とした。
ケツァルコアトルの頭部にある三対六本の角、そのうち左二本が無残にも折れていた。
「な、な、なん、で」
「……あなた方に憑いたことにより、傷つけ、人生を狂わせた。その報いです」
「そんな……元は人がしたことなのに、どうしてケツァルコアトル様が報いを受けるの?」
「人を傷つけた場合、たとえどのような理由でも、角を折られて力を失います。
ただし、人がわたしたちを使った場合は、その限りではありません」