BL小説集
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「僕のなか、に……もうひとつ、ひとの、体がある……それを、あげます……だ、から、人の子として……生まれ、な、さい」
その時“忌まれし森"に奔った感情は、親愛か、それとも感謝か。
もし涙腺があったならば、化け物は滂沱と涙を流したろう。
「できます、よ、ね」
「あああ.!あ_うん>んうん→うん」
何度も頷き、森は蔦を垂らした。
王の両腕をフリードリヒの顔に伸ばし、優しく触れる。
運命か因果か。最大の幸運は、ついにもたらされた。
「……ありがとう」
“忌まれし森"は消えた。
否、生まれ変わるのだ。フリードリヒは下腹部に触れ、安堵の息をもらした。
と、同時に限界だった。目の前が真っ暗になり、眠るように意識が遠退く。
「フリードリヒ!」
呼びかけたのは誰か、一瞬わからなかった。
しかし自身を支える力強い腕に、フリードリヒはどきりとした。
「……陛下」
「無事、ではないな。ひやりとさせおって」
まさかの言葉に、フリードリヒはこれは夢ではないかと疑った。
「陛下……へいか……どうか、許して、ください」
仕方ないとはいえ、化け物を取り込んでしまったことは確かだ。
次代が怪物の子など、弁明しようがない。
首を切られても仕方ないか、と思った矢先、エンディミオはフリードリヒの頭に手を乗せて撫でた。
「いや、助かった」
それだけで充分だった。
フリードリヒは堰を切ったように泣き出し、エンディミオに縋る。
が、問題は山積みだ。
「ヘルガ様!」
バスティアンが焦りの声を上げる。
密かに近づいた魔女が、槍を王妃に打ち下ろさんとしていた。
エンディミオが剣を取るが、間に合いそうにない――