BL小説集

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 急速な浮遊感を覚えつ、フリードリヒは目覚めた。

「っ、陛下!」

 ふらつく頭と吐き気を堪えて起き上がる。

 直感で、エンディミオに危険が迫っていると理解した。
 立つには邪魔な大腿部の点滴を、乱暴に抜く。ひどく痛いうえに血が止まらないが、構ってなどいられない。

 案の定、床に転ぶが、四つん這いで進む。

「王妃様っ!?何をしておられるのですか!」

 医師が駆け寄り、フリードリヒの肩を掴む。
 侍女らは珍しく皆、引き払っているらしい。

「……どいて、くだ、さい……陛下が、危ない……んですー」

 制止の手を、弱々しく振り払う。
 医師はそれでも止めるかと思われたが、無表情になり、冷たい声で問い掛けをしてきた。

「そこまでする理由が、あなたにありますか?」

「……え?」

「あなたに暴力を振るう夫を、あなたの父を殺した魔女を、あなたは助けるのか?」

 まるで安寧に誘惑するように、医師は尋ねる。

 しかし、フリードリヒは迷うことなく、きっぱりと言い放った。

「僕、は……僕のしたいよう、に……するだけ、です。たかだか、他人が……口を、挟まない、でくだ、さい」

 苛立たしげに睨むと、医師は立ち上がる。

 そして深く礼をし、手で扉を指し示す。

「選択は成された。もはやわたしの介入は無意味だろう」

「お、医者、さ、ま……?」

「行くがいい。人避けをしておいた。お前の行く道を阻む者はいない」
 
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