BL小説集
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サイーラの王、バスティアンは、相変わらず人当たりのいい笑顔で挨拶をした。
エンディミオはそれを不服とした態度で受ける。
ヘルガと協議した結果、一度呼び出して問い質すという論に至った。
大きな行事でもなければ、三人の王が同時に集まることはない。
「私がお二人の下に馳せ参じたのは言うまでもありません。お二方にご協力したいのです」
脂肪の詰まった顎を揺らし、バスティアンは快活に笑った。
サイーラは歴史浅く、領土も狭い。
しかし列強の王らと相対できるのは、高い工業、化学技術にある。
いまだ小国や国境での小競り合い、内戦は続いており、サイーラの品質の良い武器や馬車は、高い需要を誇る。
その凄まじい経済成長と軍需は、アルヴァやリウォインですら無視できないものとなっていた。
応接間には、三人の王が卓を囲んで座っている。
「書状は読んでいただけましたか?特にヘルガ様」
エンディミオの無言の牽制をかわし、バスティアンは一人チェスで遊ぶヘルガの方を向く。
「書状は燃やして、ついで間者は鳥の餌にしてやったわ」
「読んで頂けたなら結構。ひとつ、試してみたいことがありまして」
「……金大猪王、お前を贄にして“忌まれし森"を召喚できるか、でしょう?」
エンディミオは驚きに顔を上げる。てっきり王妃の預言を求めていると思っていたのだ。
「言ってしまうなら、できるわ。本当はアルヴァの王妃さまがいいのだけれど、甘ったれな夫がいるもので」