BL小説集
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アルヴァの城門前に、四頭立ての四輪大型馬車が止まる。
その前後にも、大勢の軍隊や、二頭立て馬車がついていた。
リウォインの国旗と王家の紋章の装飾を持つ大型馬車は、ただ一人の主のものだ。
側近の一人が、恭しく腰を折り、手を差し出す。
それを当然として取り、白鷺王ヘルガは馬車から降りた。
最上級の賓客である。黒獅子王とその側近らも出迎える。
「ご機嫌よう、黒獅子王」
「息災か、白鷺王」
表面上は和平を結んでいるため、作り笑いで握手を交わす。
二人の王が顔を会わせることは滅多に無く、最後に会談を行ったのは二年も前の話だ。
「王妃様はお元気かしら?」
「しぶとく生きている」
白々しく聞くヘルガに、エンディミオは素っ気なく返した。
両王家の因縁は長い。その初まりを知る者はいないが、歴史の中で幾度となく衝突をしたことは事実。
王に侍(はべ)る兵士らも牽制し合う。いつここで争いが起こっても、おかしくはなかった。
しかしあくまで会談に来たヘルガは、張り詰める空気を楽しむだけ。エンディミオが促すと、あっさり従いて、黒獅子王の領域に足を踏み入れた。
目覚めると、医師がフリードリヒの大腿の付け根に、点滴の針を刺していた。
「いったっ」
「も、申し訳ございません!ああ、お目覚めになられましたか」
医師の率いる看護師らが、急ぎ道具を片付ける。
身体の弱い王妃が妊娠したとあってか、大勢の優れた医療従事者たちが王室に入ったのだ。