BL小説集
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フリードリヒはゆるりと眼を開いた。夢か現か、判断しかねる。
懐かしい匂いが鼻孔をくすぐる。はっと目を開き、寝台から起き上がりて周囲を見渡す。
こじんまりとした薄暗い部屋。寝台側の小さな燭台。ささやかな服飾が入った、古びた箪笥。
簡素にすぎる部屋の窓の外では、雪が降っている。
「……夢、か」
でなければ説明がつかない。この部屋は、故郷ロメンラルのフリードリヒの部屋だった。
「にぃにぃ」
いつの間に部屋に入ったものやら、次兄ローレンツの飼い猫が寝台に転がっていた。
毛を撒き散らされては堪らないため、嫌がる猫を抱き上げて床に下ろす。
「んと、真っ暗なとこ歩いてて、可愛い鵜に会って……そうだ、ケツァルコアトル様は!?」
蔦に貫かれた翡翠は、見当たらない。鵜同様、すっかりはぐれてしまったようだ。
あの蔦は、夢に見た“忌まれし森"と同じものだった。
何が起こるか分からない。早くケツァルコアトルを見つけねば――
「おはようございます、フリードリヒ様。今日はお早いですね」
「あ……う、ん」
扉を開けて入ってきたのは、フリードリヒが幼い頃から世話をしてくれた侍女だった。
エリッサたちのような愛想は無く、淡々と部屋の掃除を始めた。
猫を部屋の外に出しながら、侍女は話しかける。