BL小説集
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それは、何かの石像にも見える。
直立したまま動かず、口を大きく開けて虚空を見据える。
姿は痩衰えた初老の男性。石と黒耀石を散りばめた布を服としている。
額から後頭部にかけて、矢が貫いていた。恐らく、これは作り物なのだろう。
そう思い、怖々と離れるフリードリヒを、石像の深紅の眼が追う。
「ひぁっ」
生きている。驚愕のあまり、腰が抜けたフリードリヒは、その場に尻餅をついてしまう。
「しんぞうのないめが腐っている」
「しゃべった!」
よく耳をそばだてねば、聞き逃してしまうだろう。小さく低い声で、それは意味不明な言葉を紡ぐ。
「しんぞうのないめが腐っている。盲目を司る者だからわかる。だがこのこは、盲目の名をもたない」
ようく見れば、異形の頭からは、二対四本の角が生えている。だが、うち二本は無残にも根本から折られていた。
角を見たフリードリヒは、確信し、座り込んだまま尋ねた。
「あ、の……神様なのですか?」
「冷え切る星。かがやきを失った星。さいかのぞむ、お星さま」
「ケツァルコアトルさまー、助けてー」
困り果て、いまだ姿を見せぬケツァルコアトルに呼びかける。
しかしフリードリヒに返答したのは、神ではなかった。
つと、背筋に冷たいものが奔る。