BL小説集
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その森は、夜明けを知らない。
生まれることができなかった命は、ただひたすらに肉を求める。
求めて求めて求めた末に、できそこないの命は、肉を繋ぎ合わせて躯を作っていく。
さあ、また素晴らしい肉が来た。
豪奢な服を来た二人の人間に、狙いを定め、綺麗な腕を貰う。
それは蔦の腕を広げ、歓喜の鳴き声を上げた。
「……っあ」
「おはようございます、フリードリヒ様。すぐ済みますから、お待ちくださいまし」
起きれば、侍女達に身体を清められていた。
侍女達は手早く、だが丁寧に柔らかい布で体の水滴を拭い、爪を鑢(やすり)で整える。
「痣も目立たなくなってきましたわ」
「綺麗な肌に戻ってきていますよ」
医師から処方された内出血の塗り薬を患部に塗布しながら、侍女はある変化に気づいた。
「まあ、新しい傷痕がありませんわ。ようございました」
王から受けた暴行や、不意の気絶による転倒や衝突により、フリードリヒはアルヴァに来て以降、痣は日常的になりつつある。
事故は仕方のないものとしても、エンディミオの暴力による痕はひどく、しばらく感覚が無い時もある。
それが今回は新しい痕がひとつもないのだから、侍女としては嬉しい限りだろう。
なんとなしに褒められたような感じで、フリードリヒは恥ずかしげに目を逸らした。