BL小説集
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「あのー……なにが」
言いたいの?と口を開きかけたが、翡翠がさらに近寄る。
「嫌いと言ったにも関わらず、やはり嫌いきれていないですね」
「うぐ……だっ、て、優しいのは、嬉しいから」
かなり恥ずかしいようで、フリードリヒは枕に顔を埋めてしまう。
常に共に在る神に、嘘は通用しない。
どれだけひどく扱われようが、わずかな気遣いと、自身を撫でる手に、フリードリヒが歓喜したのは事実。
それを見透かすケツァルコアトルは、すらすらと彼の本意を並べたてる。
「あなたは誰かの役に立ちたいという願望がありました。母はあなたを産んで死に、父は持て余し、兄は最低限の接触しかない」
故郷と、そして王のため、フリードリヒは自己を殺すはずだった。
というに、このていたらく。
まだ愛されたいと足掻く、愚かしさ。
「よろしいでは、ないですか」
「はえ?」
指摘され、へこむフリードリヒに、翡翠は意外な答えをよこす。
「愛に生きればよろしいではないですか。それが人。王に愛されたいから子を成す。今はそれでよいではありませんか」
「え、えぇー……」
あまりに利己的。子供をなんだと思っているのか。
さすがにそこまで我が儘になるならば、このまま閉じこもる方がましだと考えた。
「わたしの愛しい子。愛と、それに伴う犠牲を知りなさい。そも、あなたに自己を殺してまで役目を果たすなど、無理でしょう」
「あう」