BL小説集

□3
2ページ/35ページ

 
 その森は、夜明けを知らない。
 生まれることができなかった命は、ただひたすらに肉を求める。

 求めて求めて求めた末に、できそこないの命は、肉を繋ぎ合わせて躯を作っていく。

 さあ、また素晴らしい肉が来た。
 豪奢な服を来た二人の人間に、狙いを定め、綺麗な腕を貰う。

 それは蔦の腕を広げ、歓喜の鳴き声を上げた。






「……っあ」

「おはようございます、フリードリヒ様。すぐ済みますから、お待ちくださいまし」

 起きれば、侍女達に身体を清められていた。

 侍女達は手早く、だが丁寧に柔らかい布で体の水滴を拭い、爪を鑢(やすり)で整える。

「痣も目立たなくなってきましたわ」

「綺麗な肌に戻ってきていますよ」

 医師から処方された内出血の塗り薬を患部に塗布しながら、侍女はある変化に気づいた。

「まあ、新しい傷痕がありませんわ。ようございました」

 王から受けた暴行や、不意の気絶による転倒や衝突により、フリードリヒはアルヴァに来て以降、痣は日常的になりつつある。

 事故は仕方のないものとしても、エンディミオの暴力による痕はひどく、しばらく感覚が無い時もある。

 それが今回は新しい痕がひとつもないのだから、侍女としては嬉しい限りだろう。

 なんとなしに褒められたような感じで、フリードリヒは恥ずかしげに目を逸らした。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ