BL小説集
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――さあ、おいで。わたしの愛しい子
――あなたはわたしが使わした救い
――どうかわたしの傍に来てください
――そしてわたしの手を取り、共に終わらせましょう
優しいやさしい声は、いつだって彼に囁き、甘美に誘う。
ああ、だがそれはならぬ。自分には愛すべき、支え合うべき方がいる。
もう今日は勘弁してよ、と思っている矢先、ようやく目を開くことができた。
「え、と……」
南国アルヴァの新しき王妃フリードリヒは、瀟洒な椅子に座って頭を抱えた。
ああそうだ、と思い出す。結婚腕輪の交換が終わり、今は夫であるエンディミオが、披露宴で客人相手に接待をしている。
神憑きということを考慮され、フリードリヒは休憩するよう言い渡された。
故郷の北部ロメンラルでは、畏るべきものとして、一切の外出および申し立てが禁じられていたというのに、文化の違いはすごいなあ、と渦中の人物はぼんやり考えていた。
「どうされました王妃さま。ご気分がすぐれませんか?」
傍らの侍女エリッサが話し掛けてきた。手には水の入った硝子杯。
「だい、じょうぶ……んと、あと……どのくらいかな」
「あと十分も待てば、貴方様の陛下はお戻りになりますよ」
からかうエリッサに、フリードリヒは言い返す言葉が浮かばず、照れ隠しに視線を下に向ける。