BL小説集
□2
14ページ/35ページ
――わたしの名のひとつを知りましたね
――よろしい。あなたは資格を得ました
――境界に招聘(しょうへい)しましょう
夢を見ているはずなのに、やけに現実感がある。
ふと、浮遊感が襲ってきた。
だが恐怖はなく、フリードリヒはいたって冷静に、降り立った。
自分が眠っているという自覚はある。だがここに立っている、という自覚もある。
フリードリヒはあたりを見回した。
白ばかりで何もない。所々、虹色に歪む壁のようなものはあるが。
興味本位にその壁に触れようとすると、いつも夢で聞いていたあの声が、より鮮明に聞こえてきた。
「障壁に触れてはいけません」
性別を超越した、だが人に近い姿をした者がそこにいた。
三対六本の角を頭部から生やし、色とりどりの花を衣装として纏う。
金色の瞳で見据えられ、フリードリヒは硬直した。
「現世と神域の境目たる境界です。ここでなら、わたしとも言葉を交わせます」
フリードリヒは壁から離れ、眼前の者の名を口にした。
「ケツァル、コアトル様、ですか」
「いかにも。その名は人がわたしを呼ぶ名のひとつ」
ケツァルコアトルは微動だにせず、表情も変えず、ただ言いたいことだけを言う。
「これもまた因果、としましょう。して、わたしの愛しい子。ついにわたしの手をとりに来たのですか?」