BL小説集

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――わたしの名のひとつを知りましたね

――よろしい。あなたは資格を得ました

――境界に招聘(しょうへい)しましょう



 夢を見ているはずなのに、やけに現実感がある。

 ふと、浮遊感が襲ってきた。

 だが恐怖はなく、フリードリヒはいたって冷静に、降り立った。

 自分が眠っているという自覚はある。だがここに立っている、という自覚もある。

 フリードリヒはあたりを見回した。
 白ばかりで何もない。所々、虹色に歪む壁のようなものはあるが。

 興味本位にその壁に触れようとすると、いつも夢で聞いていたあの声が、より鮮明に聞こえてきた。

「障壁に触れてはいけません」

 性別を超越した、だが人に近い姿をした者がそこにいた。

 三対六本の角を頭部から生やし、色とりどりの花を衣装として纏う。
 金色の瞳で見据えられ、フリードリヒは硬直した。

「現世と神域の境目たる境界です。ここでなら、わたしとも言葉を交わせます」

 フリードリヒは壁から離れ、眼前の者の名を口にした。

「ケツァル、コアトル様、ですか」

「いかにも。その名は人がわたしを呼ぶ名のひとつ」

 ケツァルコアトルは微動だにせず、表情も変えず、ただ言いたいことだけを言う。

「これもまた因果、としましょう。して、わたしの愛しい子。ついにわたしの手をとりに来たのですか?」
 
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