BL小説集
□楔の愛し方
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「……っ、開かない……」
鎖でがんじがらめにされた扉は、どんなに力をこめても開かない。
とはいえ、死骸と二人きりなどお断りだ。
彼は、しばし考え、決断した。
死骸に近づき、短剣を握る。
不思議と、刀身には錆びはおろか、汚れもない。
これで鎖を断ち切れれば、出れるはずだ。
意外とあっさり、刃は抜けた。
重力に従い、死骸は床に落ちる。
「うわ」
なんとなく申し訳ない気持ちになり、一礼。
急いで短剣を鎖に立てる。
「……っく」
一心不乱に短剣を突き立てる。
そのせいか、気づかなかったのだ。背後の気配に。
ひやりとしたものが、肌に触れる。
金属か。いや、この柔らかさは人だ。
振り向くと、長身の男がいた。長い髪が顔を隠し、表情は伺えない。
いつの間にいたのか。だが恐るべきは、男の喉元から、膨大な血が流れていることだ。
赤く熱く、臭い血が、男の裸体を濡らし、密着した彼にもかかる。
「あ、あ、あ、あああっ」
驚愕と恐怖に動けないでいると、男は短剣を奪った。そして短剣をなんと、自身の喉に深く突き刺した。
突然の自害を見た彼は動けない。
男の流血は止まった。男は、生きていた。
つと、男がノブに触れる。
するとみるみるうちに鎖は錆びて朽ち、鍵の外れる重厚な音がいくつも響いた。
短剣など使わずとも、扉は開いた。
呆然としている彼なぞ尻目に、男は出て行く。
「あ、ま、待って!」