BL小説集
□楔の愛し方
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「……う」
呻き声をあげ、目を覚ます。
残念ながら、何ひとつ見えなかった。
目が見えないのか、と慌てたが、それは違う。ここが日の光とは無縁の場所だからだ。
幸い、自分は夜目が効くらしい。
慣れてくると、自分の手や、周囲が見えてきた。
冷たい石でできた牢屋、だろうか?
しかし格子も、寝台も、便所もない。
ならば空いている倉庫だろうか。それならば説明がつく。
待て。そも自分は、なぜこんな所に?
というよりも、自分とはなんだ?
「……あ、え」
低い声。自分の声。男の声。
全く聞き覚えがない。
思わず、自分の頭に手をやる。刈り上げたような短い髪。切ったばかりか、まだちくちくと痛痒い。
服は、着ている。平民が着る一般的なものだ。下着もある。
いやまて、なぜそこまで解って、自分がわからない?
おろおろ、動き回る。鼠のごとく、壁際に沿って。何かに触れていないと、自分が消えてしまいそうだった。
つと、何かに当たった。壁の突起だろうか。否、わずかに、暖かい。
「……ひっ」
それは、人の死骸だった。もはや骨しかない。
だが見事に全身の骨が残っている。
無惨な死骸は、喉の部分に刺さった短剣により、壁に縫い付けられている。
喉からうなじを貫通するほど強い力で。
一体なにをやらかしたら、こんな目に合うのだ。
「あ、あ……」
怖れおののき、死骸から離れる。
ふと、壁に当たった。
いや、これは扉だ。錆びた取っ手がついている。