BL小説集
□トロイメライ
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むかぁしむかしのはなし。
とある豊かな南の国の王様は、とっても有能で、とんでもなく残酷でした。
その武芸と軍事はどのような戦にも負けませんでしたから、国にとっては英雄です。
ただ、王様はすばらしく我が儘で手が速いので、嫁いだ妃は皆、逃げてしまいました。
このままではお世継ぎがいません。
困った宰相や大臣たちは、とある北の小国の姫を召しました。
どこの国も嫌がる、かの王様の妃を、その姫だけが申し入れたのです。
けれどもやっぱり、姫も普通とは違いました――
世界中、探しに捜しつくした妃を迎えるというに、王は欠伸なんぞかましていた。
浅黒い肌の筋肉は逞しく、政治家としても武芸家としても、申し分ない王者。
ただ人間としてはいまいちだ。
筋の通った意見なら聞くが、ただの我が儘ならば許さない。
ちょっと寝坊したり、勝手に外を出歩いたとかいった理由で反逆者と罵られ、殴られた元・妃は今まで四人。
そのうち三人は国へ逃げ帰り、一人はこの世から逃げた。
大陸南部に位置するアルヴァ王国は、特に男尊女卑ではない。
むしろ、実力主義を旨とするが故に誰にも上にいける機会がある。
作物が豊富で、余裕があることから、男女の差別なく民は暮らしている。
そんな国に嫁いだのに、こんな暴力的な夫とあっては、逃げたくもなるだろう。