BL小説集
□トロイメライ
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黒獅子に睨まれた二人の王は、おとなしく引き下がる。
会場へ赴く間、言葉を交わす。
「女王の結婚はまだですかな?」
「んくく、この身はまだ五十年程度しか使っていない」
先ほどと打って変わって、ヘルガはひどくつまらなそうに応答する。
その様子にサイーラの王妃が顔をしかめたが、バスティアンは意に介さず、ため息をついた。
「しかし神憑きとは……多難なる道ですね」
「全くだ。ロメンラル伯に懲罰を与えようにも、アルヴァ相手では負け戦の火種になるだけ……」
「そんな事を考えていたのではありません。神憑きは長く生きられないのですよ」
どうロメンラルを苦しめてやろうか、とそればかり考えているヘルガとは対照的に、バスティアンは憐れな妃のことを考えていた。
「知っている。そのうち神に意識を持っていかれてしまうだろう。黒獅子王の六度目の結婚が愉しみねえ」
ヘルガは不謹慎に呵呵(かか)と笑う。
「近頃の研究によれば、運動不足や栄養不足が原因と考えられています」
「それもある。……サイーラの豚ちゃんは、神憑きのはじまりはご存知よねえ?」
「ええ、人並みには。人知及ばぬ秘密でも?」
バスティアンは立ち止まる。
サイーラには神憑きは生まれないため、畏れるとか敬うとか、そういった文化はない。