BL小説集
□トロイメライ
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「おほほ、お久しぶりね。黒獅子王」
処女雪のように透き通った肌と、凍った滝のごとく流れる銀髪。
背筋が凍るほどに美しい女は、鈴を鳴らしたような声で、ころころと笑った。
楽しそうな雰囲気を出してはいるが、青い眼は凍てつき、無感情にも思える。
白鷺(しらさぎ)王とあだ名される、北部リウォイン国の女王。ヘルガ・ヨッヘン=ホールゾイ。
人心惑わす魔女にして、圧政を敷く王。本来ならば、フリードリヒはこちらの女王に跪く未来があった。
「神憑きとは。ロメンラルはよく隠し通せたこと」
北方では、神憑きは畏れられるもの。王権を危うくするものとして、リウォイン王家では、彼らを淘汰してきた。
「んふふ。でもようく見れば、可愛らしいわね」
ヘルガがフリードリヒに近づき、同じようだが、輝きの違う銀髪をなぜる。
まさか、かの女王に頭を撫でられるとは。
フリードリヒは驚きのあまり、ぼうとしていた。
だが離れたヘルガの白い左手首を、エンディミオの褐色の右手が掴む。
「……」
「……ちっ」
悪態をついて離れたヘルガが手を払う。
はらはらと、床に銀の髪が何本か落ちた。
魔女はフリードリヒの髪でなにをするつもりであったのか。本人は、なるべく考えないようにした。
ぴりぴりした空間を、のんびり微笑んで眺める者がいた。
薄い頭髪に、わずかに金髪がきらめく。
琥珀の目を細め、落ち着き払った声で二人をなだめた。